極限の砂漠で日本人が偉業を遂げました。先月チリで開催されたアタカマ砂漠マラソンで、日本人チームKIZUNAがチーム戦で優勝し世界一の栄冠に輝いたのです。


世界4大砂漠マラソンの一つであるアタカマ砂漠マラソンは、7日間で250kmを走破するレース。近年42.195kmを超えるウルトラマラソンや過酷な自然環境の中を走るアドベンチャーランが密かなブームになっていますが、本大会は世界で最も過酷なものの一つとして世界中の凄腕ランナーの中でも一目置かれています。

今年は世界33カ国から約150人のランナーが参加し、4つのチームが極限のチーム戦に挑みました。

たった4チーム?と思う方もいるかも知れませんが、その少なさには理由があります。あまりにも過酷な上、チーム戦のルールが独特で参加のハードルが高いため、世界の猛者といえども出場できるチームがあまりないのです。そこまで厳しいアタカマ砂漠マラソンのチーム戦とは一体どういったレースなのでしょうか?

「まずレースの過酷さからお話すると、標高の高さと気温の高低差の大きさがとりわけ厳しいのが大きな特徴です」

答えてくれたのは見事に優勝を果たしたチームKIZUNAの黒澤洋介さん。


「平均標高が3000mほどありますので、ランナーにとってはとても厳しい環境です。普通にしていても高山病にかかることもありえます。また一日のうちの最低気温が5℃以下になり、最高気温が50℃近くまで上がることがあるので、体調管理がとても難しいんです」

冷え込みの強さが与える影響は体調だけではありません。4大砂漠マラソンでは寝袋も含め自分の荷物は常に持ったまま走らなければいけなく、荷物は1gでも軽くする努力をするため、防寒具も増えることによる負担増は計り知れないのです。

「またチーム戦はルールが独特です。3人以上で構成されていなければならず、チームメイトは常に25m以内にいなければいけません。
メンバーがリタイアして3人以下になってしまったらチームとしては失格です」

こうしたルールがあるため、実力者が3人集まるだけでいいというわけにはいきません。25m以上離れてはいけないので、個人戦の成績よりもチーム戦の成績を最優先させるという強い結束が必要になってくるからです。

つまり世界で最も過酷なレースを走り切ることができる信頼関係で結ばれているランナーを3人以上集めないとチーム戦で好成績を残すことはできないのです。

KIZUNAのメンバーは三人(黒澤洋介さん、小野裕史さん、佐々木信也さん)。2年程前に知り合い同じトライアスロンチームに所属しているものの、仕事もバラバラで多忙のため一緒に練習をする時間を取ることはかなり難しい状況でした。それでもメールで練習方法などの情報を共有しながら結束を高め、優勝を狙いにいったとのことです。


「世界一を狙える機会なんてなかなかないですからね」笑いながら黒澤さんは話すものの、優勝までの道のりは文字通り険しいものだったようです。ルールぎりぎりの三人だけで臨んでいたため、一人でもリタイアしてしまったら即失格という状況でした。

「捻挫・肉離れなどの怪我もありますし、砂漠を走るので足の裏全面にマメができて一歩走るごとに激痛が走る状況になってしまうこともあります。でも一番気をつけなければいけないのは胃腸です。相当体力を消耗しますので、体調を崩して胃腸をやられてしまうことが実は一番怖いんです」

まさに想像を絶する過酷なレース。心身ともに互いを支え合うチームマネジメントが鍵を握ったと黒澤さんは言います。


「お互いにチェックし合えるのはチーム戦ならではです。毎日砂漠で何を考えながら走っているのかと聞かれることもあるのですが、レース中は水分、塩分、食事の補給のタイミング、日焼け止めを塗るタイミング、ランニングフォームや呼吸、血中酸素濃度のチェックなど頭をフル回転させながら走っています。疲れて朦朧とし、エネルギー補給のタイミングが遅れたりすると大きなダメージを受けますので、互いに注意し合えたのはよかったですね」

他方でチーム内での口論も絶えなかったとのことです。
「極限状態の中でやっているので、普段ならどうってことないことでも口喧嘩になったりしました。30歳を過ぎてから知り合った者同士で真剣に口論をするなんてそうそうないことですよね」

肉体だけでなく、精神的にも苛烈を極める砂漠マラソン。チームKIZUNAのメンバーはどうして心折れることなく、強い気持ちを持ち続けながらこの過酷なレースを乗り切ることができたのでしょうか。
その秘密は彼らがレースに使用した二つのユニフォームに隠されていました。(後編に続く)

(鶴賀太郎)