風立ちぬ公開記念2013年ジブリの夏!っつーことで、7月19日の「金曜ロードSHOW!」はジブリ作品『猫の恩返し』だ。
そこで『猫の恩返し』を楽しむために4つのポイントをピックアップしてみた。


■バロンはどうして小さいの?
『猫の恩返し』は、『耳をすませば』の主人公・月島雫が書いた物語という設定。
西司朗がドイツからもらってきた30センチほどの猫の人形がバロン。
だから他の猫たちと違って、小さな比率で存在するのだ。

■監督はどうして宮崎駿じゃないの?
ジブリ作品なのに監督が宮崎駿じゃない。高畑勲でもない。
森田宏幸監督だ。

新人、いきなりジブリ作品、いきなり監督。
けっこうな無茶だ。どうして、こうなったのだろう。
ことの起こりは1999年。
「猫のキャラを使った20分ほどの作品をつくってほしい」とスタジオジブリに依頼がきた。
あるテーマパークからの企画だ。

宮崎駿は、この頃、こう考えていた。
我々はもう年だ。新しい担い手を育てないといけない。
テーマパークの企画はぽしゃってしまうが、45分ぐらいのスペシャルモノとして新人にまかせようと考えた。
『となりの山田くん』で活躍した森田宏幸が抜擢される。
森田は、まる九ヶ月をかけて絵コンテを描く。

これを観て、鈴木プロデューサーは驚く。
このときの様子を鈴木プロデューサーは、「『猫の恩返し』誕生物語」(『猫の恩返し』DVDに収録)でこう語っている。
「宮さんに言わなきゃいけないわけですよ。それで説明するときに……。
映画にしたいんだ、宮さん。ぼくはいけると思う。

すると、なんで?って聞いてくるわけでしょ。
ハルちゃんという17歳の女の子、この子がほんとうにいるんだってことを真面目にやってるんですよね、って。
つけ加えた言葉が、どこにでもいそうで、実際にはいない。なんにも考えていないようにみえるけど、実はちゃんと考えてる。そんな女の子なんですよ。
そしたら宮さんがね、ふむおもしろそうじゃない、って」
こうして、いきなり新人監督、ジブリの劇場公開作品がスタートしたのだ。


■猫王は宮崎駿なのか?
最高権力者の猫王は、主人公ハルを迎えたパーティーで、いろいろな芸を見せる猫たちを次々と窓から放り投げる。どれもこれもくだらない芸なので、猫王の気持ちもじゅうぶん分かるが、まあ、王様らしい暴挙である。
考えてみると、猫王は、宮崎駿なのではないか。
「ひとり位は芽を出せ!」というキャッチフレーズのもとに「アニメーション演出講座」も開催するがダメ。
後継者を育てようとあれこれ策をうつが、育たない。
だが、宮崎駿は大天才だ。
有能な才能な持ち主でも大天才から観ると、どいつもこいつもろくでもないように見えてしまうだろう。
猫王は、息子の嫁を勝手にさらってくる。猫の国にさらわれるのが主人公の少女ハルだ。
少女ハルは、細田守か。
2000年、細田守は宮崎駿に呼ばれてスタジオジブリに出向する。そして『ハウルの動く城』の監督となるが、諸事情により挫折、製作中止。
つまり猫の国にさらわれて翻弄される役割のハルとそっくりの立ち位置なのだ。
さらに妄想を膨らませると、真面目なルーン王子は、宮崎駿の息子・宮崎吾朗か。この数年のち『ゲド戦記』という真面目な映画を作ることを予見しているかのようだ。

■どうして敵は自滅するの?
『猫の恩返し』の後半、バロンとムタとトトがハルが力をあわせ、大冒険を繰り広げて、暴君猫王の支配する猫の国から逃げ出すという展開である。であるが、なんだか、もうひとつワクワクする冒険にはなってない。
塔の螺旋階段、追っかけてくる猫兵! っていう絶好の大活劇シチュエーションになっても、猫兵たちは、階段が崩れて勝手に自滅する。
迷宮の罠も、壁に扮装した猫たちが一列にならぶため将棋倒しに倒れてしまうという肩すかしパタン。
バロンVS猫王なんていう盛り上げに盛り上げてほしいシーンも、走ってすれちがうだけ。剣の軌跡すら見せず、下半身の毛がみな剃られてましたみたいな古くさいギャグシーンにしてしまう。
ハルが大落下するクライマックス。間一髪でムタが助けるシーンも、なぜか手をつかむ瞬間を描かない。
落下を追いかけて、バロンが助けるシーンも、肝心の飛び込むシーンは描かない。
基本的に「大活劇を!」と期待するシーンは肩すかしか、省略されてしまうのだ。
宮崎駿と比較されるのを避けていたのかなぁーと邪推してしまう。
まあ、たしかに、螺旋階段で、階段崩れおちるなかでの大チェイスシーンをやれば、『天空のラピュタ』と比較されちゃうだろう。バロンが飛び込むシーンもしっかり描けば、『未来少年コナン』と比較されちゃうかもしれない。それは、やっぱり、怖いだろうと思う。
だが「肩すかし」は、前半ではうまく機能する。
寝坊して食パンを加えて走る少女という古典的パタンを外して、母親の食べるパンをうらめしそうに見るシーンは微笑ましい。その後も、スカートをひっかけたり、脱げた靴が野球部のランニングに阻止されて取れなかったり遅刻までの細かい描写が楽しい。
この後にくるトラックから猫をビシッと救うシーンが活きる構成にもなっていて、この導入はワクワクさせる。

リラックスしてテレビで観るのに向いている作品だと思う。まだ観てない人は、ぜひこの機会に。(米光一成)