日本ではほとんど出回らない、珍しいスニーカー(C級スニーカー)を集めている人がいる。名前は永井ミキジさん。
スニーカーのコレクターといえば、ナイキやアディダスといった有名メーカーのものを集める人がほとんどだと思うが、なぜC級スニーカーを集めるようになったのか?早速、お話を伺ってきた。しかも、話を聞いていくうちに、我々の知らないスニーカーの世界の話が続々と…。

――ミキジさんのおすすめのスニーカーは何ですか?
「『オサガ』ですね」
――「オサガ?」日本っぽい名前ですけど、日本製ですか?
「70年代に、アメリカでジョギングブームが起きたんですけど、それに便乗するような形で、製造されたものです。ジョギングブームが終わると、衰退しちゃいました」

ミキジさんはオサガの色合いが好きで、国内外問わず、見つけた時に買っているという。
しかも「オサガ」は、ある意味、非常にレアな商品のようで…

「スニーカーのお店を経営している人にオサガについて聞いても『いや~、わからない…』って言われるほど知られてないんです(笑)」

「オサガ」については、これといった詳しい情報も手に入らないまま時が過ぎていく。すると、ある日、昔、某雑誌のスニーカー特集で、偶然、オサガのスニーカーが紹介されているのを発見!しかも2足も掲載されていたという。


「ついにオサガの真相が分かる!」

…かと思いきや
「オサガなのに『ノーブランドスニーカー』って書いてあったんです(涙)。その雑誌でオサガの姿を発見した時は、発行されてから既に1年半経っていたのですが、ダメもとで雑誌に書いてあったお店に電話をしてみたんです」
――おお!!
「そしたら『まだ、2足ともありますよ』って」
――なんと!嬉しいけど、1年半も売れ残っている点においてはちょっと複雑(笑)
「でも、すぐに買いました(笑)」

オサガのように、日本で発売されることなく衰退していくブランドは、結構多いとのこと。ミキジさんは、プレミアムがつくような有名メーカーのスニーカーよりも、日本では出回らなかったメーカーのスニーカーに魅了されて、買うようになったという。

「例えば、コンバースって『MADE IN USA』って表示されているものは人気があるんです。これは、2001年にアメリカのコンバースが倒産し、それ以降に別の国で生産されたからなんですけど、価値といっても、USA表記があるかないか、その違いだけだったりするんです」

日本人はスニーカー好きな人が多いと言われているが、あくまでもナイキやアディダスといったような、日本で出回っているメーカーの中から選んでいるだけなのだという。
「実は世界中を探せば、もっと選択肢はあるんです。
たまたま日本に出回っていないというだけのことであって、品質が劣るというわけではありません」

ちなみに、他にはどんなスニーカーがあるかというと…

「オーストラリアには『カンガルー』っていうブランドのスニーカーがあります」

スニーカーなのに、カンガルーのごとく小さな“袋(ポケット)”がついている(写真参照)。
何を入れるかはアナタしだい!
でも、小さすぎて何を入れたらいいのか分からない!

●ちょいズラしスニーカー

中には有名ブランドのスニーカー「風」のスニーカーもある。
「100%そのまんまの雰囲気で作ってしまうと怒られるので、120%とか70%ぐらいの出来にするんです。例えば、横から見るとコンバース風で、全体的にはアディダス風とか(笑)」
まさに120%の出来の、いきすぎちゃったスニーカーである。
「全部入れてやろうっていう考えですね。カツ丼カレーみたいに(笑)」
品質が劣るというわけではないそうなので、欲しいという方は自力で手に入れるしかない。


「他にも、アディダス“風”のスニーカーで線が4本入っていたり、コンバース“風”のスニーカーで星の数が多かったり。ちなみに僕はこの星を『北斗の拳』の話に出てくる『死兆星』って呼んでます(笑)」

もはや、自由すぎてステキではないか。

●超レア!長嶋のジャイアンツスニーカー

そんなミキジさんは、街を歩いている時もスニーカーのことが気になってしょうがないという。
「人が履いているスニーカーは、片っ端からチェックしますね。おばあちゃんが営んでいるような、昔ながらの靴屋さんにも探しに行きます」
その甲斐あってか、あるお店で見つけたのが「ジャイアンツスニーカー」。
長嶋選手の現役時代から売られているスニーカーで、今でも残っていたというのだ。

「ファンの方にも見つけられなかったんですね。長嶋ファンの方がおばあちゃんの靴屋さんで買うというわけでもなさそうなので…」

●困惑!スニーカー友達からの突然の告白!

ところで、ミキジさんはどのようにしてスニーカーを集めていったのだろうか?
「関西にいる友達にスニーカーについて電話で喋ってたら、僕の考えに共感してくれたんです。お互いにお金もないから、二人で関東と関西とで集めようっていう話になって」
お互いに買ったスニーカーの片方を送りあうことにして、関西の友達は左足用のスニーカーを、ミキジさんは右足を集めるように。
「200足くらい集めていったんですけど、数年した頃に友達から電話がかかってきて、ある告白をされまして…」
――告白?
「『こういう形でコレクションをするのは、何かが違うんじゃないか』って言われて。片方だけのスニーカーがタンスにどんどんたまっていくのを見て思ったらしく…」
――あらら…
「『もうコレクターから抜けたい』って言い始めて、『その代わり、ケジメはつけるから』って言われて電話を切られたんです」

「ケジメってなんだろう」と思っていたミキジさん。

数日後、左足のスニーカーが200足も送られてきたのだった。

「うわ~~。めっちゃ送られてきたって思いましたよ。右を200足だったのに左が200足来たからスニーカーの種類は増えてないのに2倍になって、ものすごい存在感なんです!」

スニーカーだらけの生活をしているミキジさん。ある日、こんなことを思ったという。
「もはや、右足と左足で同じモデルのスニーカーを履いている意味さえ分からなくなって、しばらく左右で違うモデルのスニーカーを履いてたんです。そうしたら腰を痛めてしまって、すぐにやめましたけど(笑)」
人間、いくところまでいくと、我々凡人には想像がつかない行動に出てしまうものである。


● 366足目からがコレクターとしてのスタート

そんなミキジさんだが、自分はスニーカーのコレクターとしてはまだまだだと謙遜する。
「スニーカーって、『365足そろえてはじめてコレクターだ』と言われてるような世界なんです。366足以上持ってない人はコレクションしていると言ってはいけない世界なんです。毎日違う靴を履けるくらいではないとダメだということです」

確かに366足もあれば、たとえ「うるう年」だって安心である。
しかし、ミキジさんの場合はちょっと様子が違う。

「実は、サイズは気にせずに買ってます」

――ひょえ~~。どういうことですか?
「男性の場合、26~27センチあたりの人気のサイズは高いんです。でも、あまり需要のない24センチ以下や29センチ以上は安いことがあって、その場のノリでそういうのを買うことがあります。ここ数年はサイズを見て買ってないですね。」

つまり、履けない靴がわんさかとあるわけだ。
「履くというよりは、手元に置いておくという感覚ですね」

世界中のC級スニーカーに魅了されたミキジさん。「あなたのお気に入りは、地球の反対側にあるかもしれない」と力説する。メーカーが有名でなくても、海外で気に入ったデザインのスニーカーを見つけたら、サイズは合わなくても買ってこようではないか。いや、やっぱり履ける靴がいいかな…。(取材・文/やきそばかおる)


●永井ミキジさんのサイト
「ミキジ自己満足ページ」
http://www.mikiji.tv/

ミキジさんは、グラフィックデザイナー・アートディレクターである。個人収集癖をいかした執筆や商品企画・製作・販売、店舗監修、イベント出演など分野を問わず幅広く活動している。
池袋にある雑貨・カフェのお店「プラトー」http://www.plateaux.jp/ の監修も。