夏休み。各地の美術館や博物館が、親子連れなどで大いに賑わっている。


人気のある企画展などでは、何十人待ちとか、何十分待ちなんてこともよくあるけれど、混雑時にときどき気になるのは、こんなアナウンスだ。

「列に並ばずにご覧ください」
「立ち止まらず、一歩ずつ前に進みながらご覧ください」
「列に並ばず、空いているところからご覧ください」

美術館や博物館では順路が示されていることが多く、一つずつ順番に見ていくことが多いもの。目玉の展示物あたりになると、どうしても人だかりができてしまうが、それもなんとなく律義に、順番通りに「行列に並んで」観る人が多いのではないだろうか。
もしかして美術館や博物館では「並ばず」「立ち止まらず」観るほうが良いものなの?

7月26日時点で入場者が10万人を超えた人気の特別展『深海 挑戦の歩みと驚異の生きものたち』を開催している国立科学博物館に聞いてみたところ、以下の回答があった。
「こちらでは基本的に『展示物の前に並ばずに』などのご案内はしておりません。ビデオのモニター映像の前などでは、スペースをあけていただくなどあるかと思いますし、顕微鏡をのぞく、触れてみる展示物などの場合には行列はできますが、そこを抜かして他の物を観てから戻るなども自由です」

そもそも、観る順番が決まっている美術館・博物館が多いなか、国立科学博物館では昔から順路を設けず、自由見学にしているそう。
「ただ、『順路を示してほしい』という方もいます。そのため、ガイドペーパーでは観る順番などを示すガイドコースをいくつか用意しています」
やっぱり順番が決まっていないと落ち着かない人もいるのだろう。

では、美術館はどうか。行列ができることの多い都内の美術館いくつかに聞いたところ、以下の回答があった。
「皆さんお金を払って来館されますので、できる限り並ばずにご覧いただきたいのですが……なにぶん行列ができてしまい、解消できていないのが現状です」
「『並ばずに』『立ち止まらずに』などのアナウンスをするというきまりがあるわけではありませんが、どうしても行列ができてしまうので、現場判断でそういったご案内をすることもあるかと思います」

ちなみに、こうした「立ち止まらず」「並ばずに」といったアナウンスの他に、近年、人気の企画展では「列を二重にして『ゆっくり観たい人』と『流れで観たい人』に分ける」という方法や、「最前列で観たい人は行列に並び、少し距離を置いてじっくり観たい人は別の観覧スペースに行く」という方法など、様々な工夫を凝らしているところがある。

ある学芸員さんはこう話す。

「どうしても周りに迷惑にならないようにと、順路にそって順番通りに、立ち止まらず、流れにのって歩きながら観る方が多いですが、それではもったいない気がします。混雑している場合には難しいこともありますが、順路にそって一度ひととおり回った後で、気になるところに戻ってもう一度じっくり観るなどしてほしいと思います」

「3日間かけても全部観るのが難しい」と言われるルーヴル美術館などがあるように、「気になるところをピックアップして観る」「何度も通う」といった習慣が根付いている国もある。
でも、日本では「人気のある企画展に行って、目玉の展示物を中心に、順路に沿って並んでみる」のがやっぱり一般的。行列解消は、なかなか難しい問題なのかもしれない。
(田幸和歌子)