韓国の人からすごいビジュアルのお菓子をもらった。半透明の薄い帯状のものが、直径3センチほどの円筒形に巻き上がっている姿は、まさに小さなセロハンテープなのだが、これが何と食べ物だという。


その人に食べ方を聞くと、半透明のテープを長く引っぱり出し(外側から引っぱり出すより、筒の部分から引っぱった方が出しやすいとのこと)、ある程度の長さでちぎり、おもむろに口の中に放り込んだ。傍から見ても、セロハンテープを食べている変わった人にしか見えない…。

筆者もさっそく挑戦してみた。最初は口内で激しくガサガサするが、すぐに唾液でヌルっとした感じになる。これは自然の食べ物にはあり得ない食感だ。味はほとんど感じないが(韓国の人も、「何の味もないですよ」と話す)、ケミカルな食感と外見に慣れてくると、奥から控えめな甘みが感じられる気がしないでもない。


パッケージに書かれた「オブライトロール」という商品名を見て分かったのだが、これは日本で言うオブラートだ。しかし薬や飴を包まない状態の、素オブラートをもりもり食べたことのある人が、果たしてどれくらいいるだろう。

しかし、オブラートに包まれた柑橘系の「ボンタンアメ」が好きな人なら、一箱分の飴からオブラートをはがして、飴だけ・オブラートだけを一気にほおばりたいと思ったことがあるのでは? そんな子どもの頃の憧れを半分かなえてくれる夢のお菓子……と言えなくもない。

韓国では子ども向けの駄菓子は、日本の駄菓子屋と同様に、学校の前の文房具店でよく売られていた。しかし、カラフルで安価な駄菓子は健康に良くないとされ、やがて「不良食品(プルリャンシップン)」と呼ばれるようになった。最近は見かける機会も減ったが、そうした駄菓子は現在、大人たちにとっての「懐かしのお菓子」というポジションで 販売されている。


そのひとつ、オブライトロールについて30代前後の韓国人に質問してみると、多くの人が知っており、小学生の頃に食べたことがあると答える。当時はかなりメジャーなお菓子だったことがうかがえる。

どうしてこんなお菓子が生まれたのか。釜山に拠点を置く製造元の「ヨンドンオブライト」に電話取材してみた。

オブライトロールが生まれたのは、何と1970年代のこと。変化のスピードが早い韓国にて、中小企業の、ひとつの商品が40年以上変わらず残っているのは、かなり稀なことだ。
現在は2代目の社長がその味を守っている。

ヨンドンオブライトの主力商品は、オブライトロールと、粉末オブラート。創業当時、薬をオブラートで包んで飲むことが広まり、これを活用した新商品が作れないかと先代の社長が発明したのが、このオブライトロールというわけ。
70年代から80年代にかけて、「不思議な味」という評判で小学生を中心にヒットした。しかし現在は文房具店などへの卸はほとんどなく、インターネット販売などを小規模に行っているという。

社長はオブライトロールについて、「韓国ではうどんの付け合せにタクワンを食べるのですが、オブライトロールはお菓子界のタクワンみたいなものですよ。
主流ではありません」と、その味と同様に控えめな発言をされていたのが印象的だった。

いや、そんなことばかりではない。サブカルチャーが表舞台に立ち、CDより付録の握手券が好まれる昨今、何がメインで何がサブとなるかは誰にもわからない。うどんよりタクワンが、ボンタンアメの飴よりオブラートが好まれる時代が、いつかやってくるかもしれない。その時までオブライトロールが奮闘してくれることを期待したいと思う。
(清水2000)