二号では伊藤潤二、道満晴明、花沢健吾、阿部共実、施川ユウキ、榎本俊二と強烈な作家陣になり、度肝を抜かれました。
この雑誌、何をしようとしているのだろう。
作家陣は各々凝った挑戦をしていて、雑誌自体もコンセプトムックみたいのようになっている。
この興味深い雑誌『もっと!』を立ち上げた編集・金城さんに、インタビューしました。
●『BURST』との出会い
金城:今日インタビューにあたって、私もかつて好きだった雑誌ってなんだったんだろう?って考えてたんですよ。ずっと好きだったのは『りぼん』で、昔の少女マンガ型から、アニメ化していく少女マンガの世代の過渡期でした。ところが小学校の時に単行本で『行け!稲中卓球部』を読んで、すごい衝撃を受けて。それまで男性向けの漫画を読んだことがなくて、少女漫画しか読みたくないって思っていて、でも稲中で全部ひっくり返って。それでいろんな漫画を読むようになりました。男性ものは単行本で読むことが多かったです。その後『りぼん』『cookie』など漫画誌と並行して、コアマガジンの『BURST』を読んでいて…。
───僕も買ってました。麻薬とか殺人とか。
金城:タトゥーとか死体写真家の方のコーナーとか。初めて書店で見つけたのが高校の時だったんですけど、なんだこりゃ!と思い、コッソリ買って読みました。『BURST』は編集がすごいんです。編集長の人もいろんなところにコラムや心意気みたいなのを書いていて。
───当時の『BURST』とか『BUBKA』『GON!』なんかはモロにそんなんでしたね。
金城:『BURST』編集者募集ページにすごい衝撃を受けまして(ページを見せる)
───「雑誌編集とは、おしぼりを手洗いする、ピンサロのマネージャーと同じ仕事だ」すごいですね。
金城:今、雑誌での編集者のあり方を考えていると、いろいろな作家さんを一冊の雑誌にまとめるのが編集で、編集後記なども入れていきたくて……わたしが好きな雑誌ってそういうのもののはずだよなと思ったんです。当時雑誌を読んでいて、どれ一つとして「なんでこれがこの雑誌にあるの?」って思わせられなかったんですよね、一回も。
───載っているものはバラバラでしたね、90年代は。
金城:そう、企画はいろいろなんですけど、それに対して何の疑問も抱かない誌面づくりをしていて。漫画だと単行本が売れるのと雑誌としてまとめるのは別の話ってよく言われるし思いますけど、でも雑誌としてきちんと面白いってまとめられるようにしたいというのは思います。衿沢世衣子先生に、どうしたらいいかわからんと悩んでいた時に、『もっと!』はあの時ああいう雑誌があったよね、って言われる可能性のある雑誌だから、思い切りやったほうがいいんじゃない、と言われて。
●空虚だったあの頃感覚
───施川ユウキ先生の『サナギさん』が復活したのは嬉しかったです!
金城:ただ「バスよりもメロスよりも早いよ」って終わり方すごかったじゃないですか。ファンとしても再開するのが怖かったんですが、意外といつもどおりな感じでよかったなと。あ、でもサダハルくんが全然変わらないのでうれしいです。やっぱ男の子は変わらないんだなって。女の子はちょっと変わったら、変わったって思っちゃいますからね。久住先生が言ってたんですけど、『孤独のグルメ』は変わらないっていうのは当たり前で、それは男性向けだから。『花のズボラ飯』で花は女性としてどんどん変えていきたいって言っていて、すごい納得しました。女の人はどんどん変わっていって、男の人は変わらないのが美学だなと。サダハルくんにそれを思いました。
───そのへんは『鬱ごはん』のほうに出ているんでしょうね。
金城:変わらない美学ですね。
───居場所どうしよう、っていう人がほっとできる作品だと思うんです。
金城:今でもそうなんですけど、オタクじゃないし腐女子じゃないし、だからといってギャルでもないし。学生時代、何にもなれないと思っていた時の気持ちがすごく残っていて。私は何も夢中になれないコンプレックスがずっとあって、そういう人に読んで欲しいんです。『桐島、部活やめるってよ』の映画を観た時もひたすら羨ましくて。全員なんか夢中でいいね、彼氏に夢中だとか、部活やめてみんな怒ってたりとか、映画撮るぞって言い出したりとか……。何にも夢中じゃなかったんです。
●サブカルといわれるコンプレックス
金城:小玉ユキ先生が、「あたしとんがってるでしょアピールじゃない、女性誌で普通の『サブカル』といわれるジャンルの雑誌を読んだことがなかったから、読んでいて居心地が良かった」っておっしゃってくださったことがあって、とても嬉しかった。私は「サブカル」と言われるのがコンプレックスなところがあるので。自分は地方出身で、一番好きな本屋さんがアニメイトだったんですけど、オタクがいく店だと知らずに行っていたんですよね。ただ好きな本があるから行っていただけなんです。
───オタクとかサブカルの境界線がないんですね。
金城:何が「サブカル」か、ってのが私わからなくて。サブカル層に向けて作っているつもりはなくて、ただ純粋に今おもしろいと思っている作家さんで、ずっと好きだった人に頼んでいるんです。色々な人に「わかんない!」って言われちゃうことも多いんですが。
───わかんない!って人はどうしても出てくる本だとは、正直思います。
金城:そうですね。それこそ渡辺ペコ先生を好きな方が阿部共実先生を好きになってくれたりとか、雑誌ってそういうものじゃないですか。水沢先生から入って、普段読んでないけれども雁須磨子先生とかきづきあきら先生だとか、花沢健吾先生こんなの描くんだ、みたいな新しい発見になってほしいな、という願いはあります。
●「本」として見て欲しい「雑誌」としての存在
金城::私『エレガンスイブ』編集部の一員なので、主婦の雑誌で『花のズボラ飯』をやる意味って日々考えなきゃいけなかったんです。主婦だという設定にしたりだとか、主婦に嫌われたくないとか。私その前に今日マチ子先生の『Cocoon』っていう連載を担当していたんですけど、それも変わっていて。
───主婦層向けの雑誌の作家さんではないですよね。
金城:大学生のファンも多い作家で。主婦になにか引っかかるものがあれば、と考えて、戦争というキーワードと今日先生を組み合わせることを思いつきました。『ズボラ飯』も同じで、「主婦の雑誌」と打ち合わせをする中で久住さんが「花」というキャラを考えてくださったんです。工夫次第で、掲載誌がどこかは、人にどれだけ受け入れられるか、男女とかは関係ないなって。作品力だなと思ったんです。
───女性誌判型は男としては久しぶりの感触でした。
金城:長嶋有さんが、男性だったらコロコロコミックの判型だとおっしゃっていて。これが日常に染みこんでいく本になっている、と。
───男性だと、大きい判型で、並べておく方多いかもしれません。
金城:だったら『もっと!』も並べたらかわいいじゃない!(笑)沢山の人に知ってほしいんですよね。だから二号目は特に、一見バラバラかもしれない執筆陣をなんとか雑誌としてまとめたいと思って、心血注ぎましたね。映画監督の方のテキストを載せたりとか。
───これ面白いですよね、月ごとにイラストと詩が入っていて。一冊の本になっているなと。
金城:そうなんです、本にしたかったんです。季刊であることに価値をもたせるのが、私の仕事だと思っていて。季刊っていうのはマイナス要素ではないというのをやりたくて、月ごとにわけるのを入れてみたんですよね。毎月楽しく読んでね、次の発売をカウントしてね、と。
●ルサンチマンあつまれ
───『もっと!』はルサンチマンを肯定する雑誌だと感じました。
金城:好きなのやるとそうなっちゃうんですかね。それってずっと大人になっても変わらないですよね。女性誌は全般的に恋愛ものが多いですが、恋愛のテンションにあるマンガは『もっと!』には少ないと思うんですよ。
───渡辺ペコ先生の『さよならサンガツ』は恋愛の始まりが緻密に描かれていますね。
金城:今の段階では恋愛ものです。でもデザイナーの川名さんに言われたんですけど、「不穏だ」「ペコ先生がこれからこの恋愛をどうしようとしてるのか怖い」って。それを聞いて「すごいわかってる!」って思いました。連載を重ねるごとに面白くなる作品です。
───クール教信者先生とか、ルサンチマン丸出しで。むしろ恋愛負け組ですよね。
金城:……確かに負け組みの方ですね! ぜんぜん意識してなかったんですけどそうですね……。『ホロビクラブ』は先の設定を聞いているとかなりワクワクウツウツするというか。先輩がビッチなので、振りまわされるか振り回されないかって、すごく楽しいじゃないですか。私漫画でそういうのすごく大好きなんです!
───はい……えっ、楽しいですか?(笑)超安定株としてカラスヤサトシ先生がいますが。
金城:カラスヤ先生の『オトロシ』シリーズは『エレガンスイブ』のホラーシリーズの延長なんですよね。
───施川ユウキ先生と阿部共実先生がタップの対談で、「あのホラーには勝てない」って言っていたのが印象的でした。
金城:カラスヤキャラが出ないシリアスな漫画ってないですよね。『強風記』とかでもカラスヤさんみたいなキャラが主人公なので。だからこそ描ける人の怖さ、汚さ、性悪説的なもの。普段は自虐からの悪態、ひがみを楽しく描くのが得意な方ですが、『オトロシ』はカラスヤさんの新境地です、見てもらいたいですね。
───水沢悦子絵のコロコロ判型に、ルサンチマンと、自虐と、ネガティブの爆弾。
金城:それいこうかな、アンチ正義、アンチ努力。キャッチコピーほしいんですよね。
●女性誌のタブーにいどむ
───きづきあきら・サトウナンキ先生の作品も、すごい緊迫感ありますよね。
金城:私もネームチェックしていても、心臓がバクバクしてしまって。毎回毎回、女として怖いんです。『僕』とか読んでも男の子がえぐいことされているだけで、女の子のほうが仕掛けていくのであんまり嫌な気持ちにならないんだけど、今回の作品、これが男の子が感じている感覚なんだなと思うと、これで感じるってすごい変態だなって。
───わはは(笑)いやいや変態です。
金城:女性誌にすごい一石を投じたなって。自分が女で「ほれほれ犬よこい」とか言われてフェラチオとかさせられるとか、読んでいて吐きそうになっちゃって。実はネーム読んで、泣いて先輩にあらすじを説明しちゃったことがあって!
───やっぱり怖いですか? 男性向けだと割りとあるシチュエーションではありますが。
金城:怖いです! 男性誌だと平気なんです。やっぱり女性誌で女性がいたぶられるってタブーだったんだなって今更気付かされました。……思い出しても怖いです。でもドレスとか調度品とか細やかに描かれていて…女性ならではというか。その時代の本は羊の皮で、タイトルとか刻んでいないとか、こだわっているんですよ。きづき先生、サトウ先生に単行本になったとき解説してほしいくらいです。
●『もっと!』に込めた思い
───さっきの「何にもなれない虚無感」とか今の「怖い」感覚。幸せイコールほっとする、じゃないじゃないですか。「もっと!」のテーマってなんでしょう?
金城:作家さんにお願いする時に言っていたのは、『もっと!』っていうタイトルは、私達も「もっと」がんばりたいし、「もっと」面白いものを載せてやるって思ってるし、作家さんにとってもこれが人生の一作であると思って欲しいと思っています。花沢先生だったら『アイアムアヒーロー』は紛れもなく傑作なんですけど、それとはまた別のもの。「もっと」を色んな所にかけていくと、多分自然と印象が強いものになると思うんですよね。「なんとなくはじめました」という漫画が一個もなくて、何かしらでチャレンジしていただいています。磯谷先生も良い人ばかりじゃなく、黒いところを書きたいとおっしゃってくださって。そうなるとテーマとかジャンルもはっきりした状態ではじまるんです。連載の人は連載重ねるごとに、先生たちがどんどん面白くしてくれています。
───『もっと!』だったらこれくらい描かせてくれる、ってなると面白いですね。
金城:そうですね。一緒に挑戦させていただきたいです。
このインタビューをしたのは、三号発売後。
そして四号が発売されるわけですが、届いたメールに添付されていた4号の表紙を見ると……!?
攻めますね、『もっと!』。
(たまごまご)