中でもとりわけ人気があるのが「高校生RAP選手権」という企画だ。
一体、高校生のラップ大会がなぜそこまで人々を魅了するのだろうか。
この大会は1対1で即興のラップで相手を口撃しながら戦うフリースタイルMCバトルと呼ばれるトーナメント形式で行われている。楽曲のコンテストという形式をとる大会とは異なり、相手が自分に対して口撃してきたことを受けて、その場でリズムに乗せて韻を踏みながら気の利いたフレーズ(パンチライン)を織り交ぜながら反撃するフリースタイルのバトルは独特の盛り上がりを見せる。その分、出場者には高度なスキルが要求される。
「フリースタイルは独特で大人のラッパーだからといってできるとは限らないんです
が、出場している高校生の中には大人の中に入っても遜色のない人もいます」
語ってくれたのは高校生RAP選手権の公式レフェリーであり、企画の立ち上げにも協力したラッパーのダースレイダーさん。
「当たり前にヒップホップがかかっている家庭に育って、ラップが当たり前の表現手段になっている人が出てきているんですよね」
日本にラップが入ってきたのは1980年代。いとうせいこうさんや近田春夫さんなどが積極的に取り組み、90年代に入るとダンスを通じてヒップホップカルチャーが浸透し始め、90年代半ば以降MURO、キングギドラ、RHYMESTERなどのビッグスターが活躍すると同時に「今夜はブギーバック」(スチャダラパー feat. 小沢健二)や「DA.YO.NE」(East End +YURI)など、広く一般的にも大ヒットしたことによりラップブームが訪れる。
「先達の努力によってファンができました。その子供世代は産まれた時からヒップホップを聴いてるので自然と裾野は広がってきています。RAP選手権の出場者が優等生から不良っぽい人まで本当に幅広いのはその表れでしょうね」
ラップやヒップホップというと、B-Boyファッションに身を包んちょっと悪そうなヤツ
を想像してしまいがちだが、過去の出場者には、進学校に通いながらニコ動でラップを発表する優等生もいれば、生まれてから大会出場まで電車に乗ったことのなかった田舎から出てきた高校生もいる。
こうしたバラエティーに富んだ高校生が様々なスタイルのラップを繰り広げるのを見ているのは面白い。しかしそれだけではここまでの人気はでなかっただろう。
「Youtubeで145万アクセスありましたけど、それは日本のヒップホップ人口を越えてますから、一般にも浸透しているということですよね」
そう、ヒップホップファンの枠を越えて広く人気を集めているのだ。それは一人ひとりのラップが現在の高校生のリアルな心の叫びになっていているからだ。その熱い気持ちのぶつかり合いが視聴者の感動を呼んでいる。
そもそもラップは、アメリカのゲットーで楽器を買うお金もない若者たちの自己表現の手段として広がった部分がある。
「高校生なりに抱えているものがありますからね。感情をストレートに出せるので、溜まっているものを吐き出すのにラップはいいんですよ。金も全然かかんないし」
昨今の若者は熱い夢や強い欲望を持つことなく、冷めていて悟っている風情があると言われるが、この番組を見ていると現在の高校生にも抱えている思いや熱い情熱があることが痛いほど伝わってくる。それを表現するのに最も適した方法のひとつであるラップのスキルを磨き、バトルという勝負を通じて表現していく様は、ラップの上手い下手を競うだけのコンテストを越えた強烈なカタルシスを生むのだ。
その高校生RAP選手権の第4回大会の様子が、10月14日にオンエアされる(BSスカパー!Bazooka!!! 午後10:00 - 12:00)。
ダースレイダーさんに第4回大会の見どころを聞いてみた。
「今回は出場経験者と初出場組が半々くらいです。出場歴があって負けた高校生の中には悔しさから努力して急成長するコもいるので、初出場組がどう食い込むかというのはあります。また第1回大会で優勝しながら、その後事情があって出場できなかったラッパーが今回復活したのはトピックスです。ただ全体のレベルが回を重ねるごとにどんどん上がっているので、1回目のチャンピオンだからと言って果たして通用するのかというのは見どころですね。あと今回沖縄から出場してるコがいるんですけど、この大会の和が全国に広がっていって自分の街から全国の奴らに自分のラップを聞かせるという舞台としてこの大会が機能しているのも観ていてて感じられると思いますよ」
ラップ好きはもちろん、熱いハートに触れたいという人は必見だ。
(鶴賀太郎)