一生懸命、本を見ながら筋肉を描いた
伊藤 小学校四年生のときに『宇宙戦艦ヤマト』。
───まさにロボットアニメ世代ですね。
伊藤 『パシフィック・リム』見れなかったんですよ~! ちょうど映画のほうが佳境で…………。
ロボットアニメに育てられた伊藤監督はアニメーターに。多くの作画を手がけたあと、演出になった。携わった作品は『ONE PIECE』などの少年ものから、『おジャ魔女どれみ』などの女児ものまで幅広い。
───(資料をみながら)あっ、ほぼ同時期に『グラップラー刃牙最大トーナメント編』(2001年/キャラクターデザイン)も『Kanon』(2002年/監督)をやってるんですね。
伊藤 『刃牙』のキャラデザと『Kanon』の準備は同時並行でした。
───全然ちがうジャンル。
伊藤 一生懸命、本を見ながら筋肉を描きました(笑)。もともと、筋肉ものとかアクションはやりたかった。なかなかやる機会がありませんでしたけど。
───『刃牙』ほど筋肉はありませんけど(笑)、『映画ドキドキ!プリキュア』はアクションがガッツリありますよね!
『映画ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス』は「思い出」と「未来」の物語。謎の男・マシューが、マナはじめプリキュアたちを思い出の世界に閉じこめてしまう。
すごーく切ないお話だ(めっちゃ泣いた)。なのに、序盤からアクションシーンが満載、後半はバトルに次ぐバトルになっている。肉弾戦成分もたっぷり。
───アクションシーンは、なんとなく初代『ふたりはプリキュア』を連想しました。伊藤監督は『ふたりはプリキュア』の一話演出を手がけてますね。
伊藤 シリーズディレクターの西尾大介さんと、『エアマスター』を一緒にやってたんです。それつながりで、初代の1話をやらせてもらって。
───『ふたりはプリキュア MaxHeart』も。
伊藤 他の仕事もありつつ、あいたら「じゃあプリキュアやります」みたいな感じ。
───映画を拝見して、「動きが本当に素晴らしい!」と思いました。
伊藤 ありがとうございます。
───それって、絵や絵コンテを描く段階で、どういうところに気をつけると生まれるものなんでしょうか。
伊藤 難しいですけど…………見せ方の問題でしょうか。キャラクターの台詞を「ドラマの中の相手に」どういうふうに伝えたいか。そして「見ている人に」どういうふうに伝わってほしいかを考える。それに合わせてカット割りとか絵をつくっていきます。たとえば、見ている人には、登場人物たちの感情とは別のニュアンスを伝えたい場合はカメラを引く。ストレートに登場人物の感情と同化してほしいときにはぼんっとカメラを寄せる。
───実写映画に近い気がしました。王道のハリウッド映画に近いなあと。
伊藤 そうですか? それは意識してなかったですけど、「ハリウッド映画の作り方」みたいな本は、昔けっこう見てました。作画から演出になるにあたって、理論的ななにかがあったほうがいいのかなって、勉強しましたねー。
───演出を志したのはなぜですか?
伊藤 作画って、演出さんが作ったコンテに従って描くんです。描いてるうちに「じぶんだったら違う見せ方をしたいな」っていう気持ちがどうしても出てきて。それを実現するためには、絵コンテをやらなきゃいけない。東映アニメだと、絵コンテをやるのは演出なので、「じゃあ演出をやります」と。試験を受けて、通りました。
───「違う見せ方」というと、たとえばどんな。
伊藤 テレビシリーズには尺や枚数制限があるので、表現できることってどうしても限られちゃうんですね。
───今回の映画は約70分ですが、いろんなエピソードがぎゅっとつめこまれてます。印象として、動きがこちらが待ち構えるよりちょっと早くて、とても気持ちがよかったです。「あ、プリキュアが地面から飛び立ったぞ」というつぎの瞬間、もう敵に体当りした後のリアクションだったり。
伊藤 「最低限のカット数でどこまでコンパクトにできるか」は探りながらやってました。コンパクトにすると、それだけ話をちゃんと入れられる。……まあ、急ぎ過ぎちゃった点もあるんですけど……。変身や必殺技のBANK、OP、EDや子どもたちへの前説などの、絶対に必要なものがある中で、本編のほうにどこまで尺を使えるのか考えました。正直、もうちょっと尺があればもっと描写を増やしたかったところはやっぱりあります。
プリキュアは本来「肉弾戦もの」
───どういうふうにシナリオが出来ていったのでしょう。
伊藤 ちょっと……「生っぽいもの」をやりたかったっていうのはあります。
───生っぽい?
伊藤 プリキュアって、本来は敵を倒すっていう、肉弾戦なんですよね。それを「ちっちゃな女の子に見せる」ことを考えたときに、なんだろうな…………。「自分の手も痛いんだよ」みたいなことが書けると映画になるのかな?という、漠然とした気持ちがありました。それだけじゃ映画にならないので(笑)他の方のやりたいことを吸収して、山口さんにまとめてもらいました。
物語の中心となっているのは、マナの「おばあちゃんとの思い出」「愛犬マロとの思い出」。敵のマシューは、映画のフィルムを使ってマナたちを幸せな思い出に閉じこめることで、未来を奪おうとする。
───「おばあちゃん」や「犬」というモチーフは?
伊藤 山口さんですね。マナの性格が、お父さんの性格もお母さんの性格もそんなに引き継いでません。実はおばあちゃんとそっくりっていう設定が、どっかにあったんじゃないのかな。
───あと「アナログフィルム」も印象的に扱っていますね。
伊藤 今の形になるまでに、一回モチーフががらっと変わったんです。そのときに、もともとあったもともとあった「映画に閉じ込める」というネタを復活させてもらいました。
───今の子供には、フィルムってもの自体がわからないかもしれない。
伊藤 お母さんやお父さんが、小さいお子さんに「あれってなに?」って聞かれたら、説明してあげてくれるといいなと思ってます。実は、この映画から、100パーセントDCP(撮影から上映までデジタルデータを用いる方式)になりました。もうフィルムの焼きもない。だからこそ、入れられるならネタとして入れておきたい気持ちがあって。
───記念ですね。
伊藤 まあ、絵をつくるひとたちに伝えやすいってのもあった。カメラがあって、映写機があって、フィルムがあって……って言えば「ああ、こういう感じかな」ってなんとなくわかってくれますから。
(青柳美帆子)
後編につづく