地図をみるとき。それは、「もちろん目的地へ行くときだ」という人がほとんどだろう。


しかし、このページの下にある関連写真の地図をみてほしい。この地図は、現実にある場所を描いているものではなく、すべて想像で描かれたものだ。まさに手作りの地図である。

手作りといっても、緻密でリアル!「え、この地図すべて手作り!?」と凝視し、二度見、三度見してしまったほどだ。駅や道路、路線図、公園や寺、バスの停留所までも丁寧に描かれていて、さらに、小学校、ビルやスーパーの名前まで書き込まれているのだが、それも空想のもの。何も知らず「○○県にある△△市の地図だよ」と教えられたら、「そうなんだ~」と納得してしまうだろう。


一体、この地図は誰が何のために作ったのか。とても興味がわき、地図の作成者であり、空想地図を知るきっかけとなった書籍『みんなの空想地図』の著者でもある今和泉隆行さんにお話を伺った。

まずは、なぜ空想地図を描こうと思ったのかというきっかけから。
「幼少期から、バスに乗るときによく路線図を見ていました。7〜8歳の頃、その形を模倣して、実在しない地名を並べ、地形を描いてみたのが始まりです。やがて路線図から都市地図になり、描き直しを繰り返すうちに描画領域が広くなり、今に至ります」

『みんなの空想地図』には、小学生の今和泉さんが描いた地図が掲載されているのだが、小学生が遊びでやっていたというレベルなのか?と驚く。
28ページの手描きの地図は、整っていてきれいだなとさえ思ってしまった。

小学生の頃から始めた空想地図。休止期間があるにせよ描き始めてから、かれこれ20年以上にもなるそうだ。地図作成の楽しさはどんなときに感じるのだろう?
「描いている途中は、その場所の空気感、通行人、風景、聞こえそうな会話を想像しながら描いていますので、適度な小旅行、現実逃避が楽しめます」

そう、この空想地図の楽しみ方として、本書では空想トリップが紹介されている。今和泉さんが描いた空想都市・中村市(なごむるし)をバスや鉄道を利用して巡っていく、シミュレーションのようなものだ。この文章を読んでいると、自分が本当にこの街を知っていて、歩いているかのような気分になるから不思議だ。
それは、おそらく、今和泉さんの描く地図が現実にある街ととても近いものだからだろうなあと思う。

反対に、めげそうな時もあるか聞いてみたところ、「描き直しが多く、作業も少々時間がかかるので、基本的にはめげております」とのこと。なかなか骨の折れる作業なのも、地図を見れば納得だ。

単に趣味として描いていた地図が、手描きからパソコンを使うようになり、人にみせる機会が増えていったという。では、なぜ書籍を出版することになったのだろうか。「『工場萌え』や『団地の見究』で有名な大山顕さんが私の空想地図をTwitterで話題にしていて、そのツイートを見つけた編集の中村さんから連絡をいただきました。
空想地図を書籍にする、と言ってもまだまだ地図も私も未熟なので時期尚早かと躊躇していた部分もありましたが、中村さんの熱意と辛抱強さによって企画が通り、白水社編集部の和久田さんのプロデュースで出版に至りました」

本書を読むと、ただ目的地へ行くためにしか使っていなかった地図の見方が少し変わったような気がする。地図を見るときに、ここに注目すると面白いというポイントも教えてもらった。

「逆にあまり気張って注目せず、肩の力を抜きましょう。シンプルに、文字や図形、色の多いところは人が多く、そうでないところは人が少ない地域です。地図は比較的煩雑な絵ですが、このコントラストはわりと簡単につかめます。人の多いところ、少ないところ、そこそこ多いところ、自分の身近な町に近いところ、色々あると思います。
そこにはどんな人がいて、どんな店があり、どんな風景なのか、お持ちの経験や感覚と比べながら見ていくと、その場所の空気感が少しリアリティを持って見えてくると思います」

やはり、その場所がどんなところか想像してみるのがいいのかもしれない、また、その場に行ったときに自分の想像とどう違ったのかを見てみるのも面白いかも。ぜひみなさんも試してみていただきたい。

この空想地図に触れると、子供の頃に熱心に細かな迷路を描いたり、お絵かきに夢中になっていたりした頃を思い出す。あの頃のように、夢中になって想像して何かを描くことなんて、なかなかないなあと懐かしくもなってしまった。

ちなみに、地図作成で達成感を得られるときを聞いてみたところ「達成感は、地図が完成していないので、まだ感じておりません」とのこと。空想地図の更新情報は「空想地図へ行こう」で確認できる。
今和泉さんの完成した地図はどんな姿になっているのか、楽しみだ。
(上村逸美/boox)