まずはソウルからの長距離バスの発着点となる「東ソウルバスターミナル」へ。横城の中心部に行くバスに乗ろうと考えていたら、蒸しパン村のある安興(アンフン)という集落まで、2時間弱で行く直行バスがあるのを発見。係のおじさんに「バスの到着地は蒸しパン村とは近いですか」と聞いたところ、「そこはだいたい蒸しパン屋だよ!」と答える。でかした、それでこそ蒸しパン村だと期待は高まる。
ただしそのバスは頻繁には出ておらず、今回は結局、停留所のある「横城休憩所」まで行き、そこからタクシーで安興蒸しパン村へと向うことに。
畑や牛小屋ばかりの山道を車で進むと、その小さな集落は現れた。高くても2階建ての店舗や、役場・郵便局などが集まる、長さ200メートル程のこぢんまりとしたメインストリートに、確かに蒸しパン屋が並んでいる。ニコチャン大王のように顔に直接手足が生えており、片手はぐっと親指をたてている蒸しパンのキャラクターが、それぞれのお店の看板に描かれているので、すぐそれと分かる。
いくつかの店舗に立ち寄り、蒸しパンを購入してみた。どこもテイクアウト型の店舗であり、名物の「安興蒸しパン(アンフンチンパン)」はアンコ入りの1種類のみ。
購入したものを、さっそくその場で食べてみる。蒸したてほかほかの小麦粉の生地の中に、あつあつのアンコがぎっしり。アンコはあまり甘くなく、素材の味を生かした素朴な風味となっている。これはなかなかのお味。安興蒸しパンは、韓国各地の高速道路の休憩所でも売られているが、本場の味は現場に来なければ体験できないだろう。
後で調べたことによると、安興蒸しパンは小麦粉にマッコリを加え、オンドル(床暖房)の上で発酵させるという、伝統的な方法を今でも守っているそうだ。まさに昔ながらの味といえる。
「日本から来ました」と言うと、「遠いところから良く来たね~」と大歓迎。蒸しパンをもう1個サービスしてくれたお店のおばちゃんに、話を聞いてみた。
この村では朝鮮戦争以降、アメリカからの救援物質として豊富にあった小麦粉を利用し、蒸しパンを作り始めたという。
お店の方は、蒸しパンのみならずインスタントコーヒーまでサービスしてくれ、出るときには「またおいで!」と言ってくれた。田舎ならではの人情あふれる雰囲気が、この街のもうひとつの魅力といえるだろう。
帰りのバスが来るまで村を歩いてみると、シュールな蒸しパンのオブジェが乱立しており興奮した。あるものは、柱の上に置かれた蒸しパンが、まるで虚無僧のように堂々と立っている。またあるものは、蒸しパン部分が4分の1ほど割られ、内容物のアンコまで見せるというサービスっぷりだ。そして、既に看板などであちこちに見かけている、ニコチャン大王みたいなキャラクターのリアル版も登場!
どれも蒸しパンに胴体らしき部分が取り付けられ、キノコみたいになっているのがご愛嬌だが、人里離れた蒸しパン村のファンタジックな雰囲気を、より高める素晴らしい演出といえるだろう。思わずたくさん写真を撮ってしまった。
安興のバス停からソウル方面のバスに乗り、帰路についた。毎年10月にはここで「蒸しパン祭り」も行われ、蒸しパンをテーマに盛り上がるのだという。
(清水2000)