「公立校」「私立校」の違いをご存知だろうか。

地方出身の自分などは、「私立は公立に行けない人が行くところ」とか「お金持ちが行くところ」と聞いて育ってきた。
高校も、地方の進学校ではほぼ自動的に9割方が「国立文系コース」「国立理系コース」に振り分けられた。
だが、大学で上京し、自分が親になって、取材で私立校を訪ねる機会を得て、そうしたイメージが「誤解」と「偏見」だらけだったことを初めて知った。

私立校に対する誤解・偏見にどんなものがあるのか。また、なぜ生まれたのか。東京私学中学高等学校協会常任理事で、東京私学教育研究所所長の清水哲雄先生に伺った。

●「私立校はお金持ちが行くところ」という誤解と偏見
「2012年度の高校卒業生の割合を見ると、全国では約30%が私立で、70%が公立です。
東京では私立の割合が多く、約56%が私立なんですよ。また、公立校は『タダ』というイメージを持たれがちですが、それはすべて税金で支払われておりますし、都立高校では生徒1人当たりに年間130万円以上の費用がかかっています(2014年度から授業料無償制度がなくなり、国公私立を問わず「就学支援金」を支給する制度に一本化されました)。それに対し、私立校は1人当たりにかかる年間平均額が100万円以下。実は、公立校のほうが約30万円も多いんですよ」
自分の懐から直接出ていくお金にしか目がいかないが、実は公立の教育には私立よりもお金がかかっているそうだ。

●「私立校は予算がたくさんある」という誤解
「『私立校は予算がたくさんあって良いね』と言われますが、校舎を建てるにも公立校は税金で行えるのに対し、私立校は寄付金のほか、基本的には積み立てていかないと建てられません。借金をするにも担保が必要で、たとえば50億円借りるために30億円の担保が必要と言われることもあるわけです」

公立校と違い、私立校の理事長・校長は「学校経営」を行うため、お金のことを考えなければならない。
先生方に夏の賞与を払うために必要な「繰越金」を前年度決算の段階で作らなければいけなかったり、空調設備なども「減価償却期間が終りに近づいてきたから、そろそろガタがくるぞ」などと考え、積立金の再検討を始めなければいけなかったりするそうだ。
また、公立校の場合は「教育委員会」がかなり力を持っているが、教育委員会の運営も当然税金で成り立っている。私立校はそれも自前だ。
つまり、私立校が「利益のためにやっている」というよりも、公立校が「お金のことを考えずにやれている」というほうが正しいのかも。

●「私立校は民間企業と同じ」「利益のためにやっている」という偏見
「私立校には助成金があることをご存知ですか。国ベースで、現在は『地方交付税』として一括で各県に配布されておりますが、東京都だけは裕福な自治体だということで助成金がなく、自前でやっています。
『私立校は民間企業と同じで利益を求めている』などと言われますが、地方では実際、公立校に行けない子が私立校に行くケースも多いですよね」

確かに、公立校に落ちてしまった家庭などで「お金がある家の子は、私立に行ってくれたら良いのに」と呟くケースも多々ある。しかし、「お金があるから私立校を選択」したわけじゃない家庭も、現実的に多々あるのだ。
そう考えると、私立校に対しての助成金には大きな意味があることもよくわかる。

教育基本法第8条には「私立校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ」という記載があるが、では、その「重要な役割」とは……。

後編で「公立校・私立校」の役割の違いを考えてみたい。
(田幸和歌子)