テレビアニメ「アオハライド」の監督・吉村愛インタビューの後編です。(前編はこちら

アニメを見慣れていない人にもなじみやすい声を

───声優さんはどのように決めたのでしょう?
吉村 オーディションです。
最終的に皆で絞り込んだ何人かの声を先生にも聞いていただきつつ決めました。最初に先生にお会いしたときに、「声はどんなイメージですか?」ということをお伺いしたら、「アニメっぽいというよりは、等身大な感じでリアルっぽい感じがいいんじゃないかなと思っています」とおっしゃられて。それを踏まえて声を聞いたときに、梶(裕貴)さんが一番ナチュラルだなと。また、根底として、高校生の役なので等身大に近い方、ぴちぴちした感じ(笑)がほしいということはお話していました。
武井 原作もすごく人気があって、あまりアニメを見慣れていない人も見るんじゃないかと思ったので、ナチュラルな演技というのは皆でこだわったところですかね。
吉村 バランスで言えば、洸がナチュラルだとするなら、双葉は話を引っ張っていくポジションだしギャグ要素も多いので、多少アニメっぽくてもいいかなって思っていたんです。最初に内田(真礼)さんの声を聞いたときに、その絶妙なバランスが抜群によくて。
武井 等身大の高校生っぽい感じが出ていました。
吉村 洸のナチュラルな芝居で、双葉の芝居を持ち上げてもらったり、逆に双葉のオーバーぎみな芝居で洸のナチュラルな芝居を崩してもらったり、そこのバランスがうまくでるといいなと思って。作品を作って行くうえで、お互いの掛け合いで2人の関係性を埋めていってくれたらおもしろくなるかなって思いました。そこも含めて、この内田さん、梶さんというカップリングがいいんじゃないかという話になったんです。

双葉と洸の距離感に胸キュン

───洸と双葉のキュンとするやりとり等、エピソードで好きなシーンありますか?
吉村 エピソードというか、2人の距離感がすごく好きです。
2人の近い微妙な距離感が、エロチックな感じでなくてナチュラルに入っているのが良いんですよね。そこが先生の作品の特徴なのかなと勝手に思っています。お互いに好きって言っていないのに、二人の距離感が自然に近くなっている。それってすごく良い関係性だし、キュンキュンしますね。
───主人公以外にお気に入りをあげるとしたら?
吉村 小湊(亜耶)くんはわりとみんなから愛されていて。最初は少しイヤなキャラなのかと思ったんですけど、バカかわいいっていうか(笑)。コミックス10巻はドラマCD同梱版というのもあったんですよ。ドラマCDは、時系列的にはリーダース研修に行くまでの珍道中を描いた内容なんですけど、小湊くんが物語を盛り上げてくれたりという位置にいて、かわいらしくて愛着が湧きました(笑)。
───ちなみに監督の高校時代でキュンとしたエピソードなんてありますか?
吉村 先輩がかっこいいから部活中にこっそり見にいくとか、一般的ですよ。私はポケベル世代まっさかりだったので、テレホンカードをいっぱい持っていたりしました。休み時間になるとベルを打つために公衆電話の前に女子たちが並んでましたね。

偶然の積み重ねでアニメ業界へ

───高校時代にはもうアニメ監督の道を志していました?
吉村 全然です。
大阪の芸能文化科のあった学校に行っていました。ドラマをつくる授業があって、その授業で初めてドラマをつくりました。その後、映画研究部に入って友達と映画をつくってました。学校にあった編集機材で作業していたとき、後ろから先生に「いまのつなぎ、すごくいいね」と褒めてもらって。そこでいい気になって(笑)、映画とかドラマづくりとかっておもしろいのかなって興味を持ったのがきっかけです。
───きっかけはアニメではなく実写だったんですね。
吉村 その後、大阪芸術大学映像学科に入るんですけど、それもたまたまが大きかったんです。芸術系なら一般試験を受けずに面接で受かるんじゃないかと思って軽い気持ちで受けました。結果、落ちるんですが。フリーターになって2年目に、お金もたまっていたしもう一度受けてみようかなと思って映像学科を受けたら合格したんです。そこからはもうちょっとマジメに映像を勉強しました。アニメでも監督業でもなく、『演出』することにすごく興味がありました。

───その後、サンライズに入社されていますね。
吉村 会社説明会で制作コース、演出コース、シナリオ・ライターコースがありますよ、みたいに言われたんです。今考えると、コースがあるんじゃなくてこういう道もありますよっていう話だったんだと思うんですけど、当時はよく分かっていなかった(笑)。友達が受けたから一緒に受けたっていう、たまたまな理由もありました。
───またもやたまたまだったのですね。
吉村 でも入ったら制作会社なので当たり前なんですが実写は撮れない、演出にはなれない(笑)。とはいえ、そのときも演出ができるのであればどこでもいいからやれる場所があればと考えていました。アニメと実写ではもちろんやっていることは違いますが、演出という意味で基本的なところは変わらないと思っています。でもアニメ業界ってそんなに簡単なものじゃないので、壁にぶつかることばっかりなんですけどね……。
───アニメ監督になって良かったことは何ですか?
吉村 アニメにはいつも感動を覚えています。絵が動くってすごくないですか!?紙に描いたものが動いて、しかもちゃんと計算して動かせるような絵を描いているアニメーターさんってすごいなっていつも思うんですよ。
───逆に辛いことを聞かせてください。

吉村 演出とか監督ってかかわる人数が結構多いのと、会社によってはやり方もまちまちなんです。人付き合いがあまり得意じゃないので、ストレスがかかる部分が多いというか大変だなあと思っています。
武井 人づき合いが苦手な風には全然見えませんが(笑)。
吉村 いやいやいや(笑)。

人付き合いが大事な監督業

───結局、サンライズには何年所属されていました?
吉村 3年ほど制作進行をやって、1年ぐらい演出助手をやって、あとはフリーの演出になりました。制作進行を続けていて演出になれるわけではないので、たまたま演出助手をやらせてもらえるタイミングがあったので良かったです。
───制作進行こそ、いろんな方とのおつきあいが必要な感じですよね。
吉村 制作進行って監督とは近しいものなのかもしれないと思いました。もちろんいろんな人がいるとは思いますけど、私の中では監督っていろんな人とのバランスを取りつつ、無事に作品が終わるようにもっていくという仕事かなと思っているんです。
───自分のやりたいことよりは周囲に気配りする感じで?
吉村 もちろん自分のやりたいことをやらせてもらいつつ、いろんな人がやりたいことを自分の中であっているかあっていないという話をして、互いに理解してやってもらうっていう作業があって。その中で無事にみなさんが気持ちよく仕事ができるようにいろいろ話をしてまとめなきゃいけないっていう段取りだと思っています。そういう意味では制作進行やプロデューサーに近しいと思います。

───最後に「アオハライド」への意気込みを聞かせてください。
吉村 原作の世界観を壊さずに届けられるようにつくっているので、原作ファンはもちろん、初めて観る人にもおもしろいと思って見てもらえればと思っております。マンガを読んでいてニヤニヤしたり、キュンキュンしたりするポイントを大事にしながら、1話数1胸キュンという目標を掲げて作っておりますので、キュンキュン、ニヤニヤしてもらえたら嬉しいです。その反応がいただければ、これ以上嬉しいことはないですね。胸キュンシーンを楽しんで見てもらいたいです。
(小林美姫)
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