小池一夫、といって今の若い子たちにどれくらい刺さるのかわかりませんが、漫画や小節、アニメ、映画など映像系エンタメをめざす学生なら、ぜひ作品に触れておいて欲しい! そう再確認させる書籍がkindleでリリースされました。「小池一夫対談集 キャラクター60年」です。

職業は漫画原作者・作家で、1936年生まれだから、今年なんと78歳。さいとうプロに所属し、「無用之介」「ゴルゴ13」などの原作に携わった後に1970年に独立。いきなり「子連れ狼」(画:小島剛夕)で大ヒットを記録します。その後も「クライング・フリーマン」(画:池上遼一)など、数々のヒット作で原作を担当しています。

もっとも小池一夫の功績といえば、1977年に設立した「小池一夫劇画村塾」を忘れる訳にはいきません。漫画作家育成のために私財を投じて開設された私塾で、ここから漫画「うる星やつら」の高橋留美子、「北斗の拳」の原哲夫、ゲーム「ドラゴンクエスト」の堀井雄二など、蒼々たる才能がデビューしていきました。

また「漫画はキャラ起てが重要だ」とする「キャラクター原論」の提唱者で、「キャラクターはこう動かす!」など著作が多数。大阪芸術大学キャラクター造形学科教授(学科長)、神奈川工科大学情報学部情報メディア学科教授を歴任し、現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校で教鞭をとるなど、後身の指導に当たっています。公式ツイッターのフォロワーは5万人にものぼるほど。その活躍ぶりには驚かされます。

んでもって今回出版されたのは、2013年に小池書院(なんと同氏が編集長!)から出版された対談集の電書版。第一巻では「鉄腕アトム」、庵野秀明「新世紀ヱヴァンゲリヲン」、板垣恵介「グラップラー刃牙」、虚淵玄(ニトロプラス)「魔法少女まどか☆マギカ」、小島剛夕「子連れ狼」。第二巻では藤子不二雄A「笑ゥせぇるすまん」「怪物くん」、高橋留美子「うる星やつら」「犬夜叉」、堀井雄二「ドラゴンクエスト」、さくまあきら「桃太郎電鉄」、神山健治「攻殻機動隊S.A.C.」と蒼々たる名前が並んでいます。

対談のテーマはずばり「キャラクター論」でしょう。前述の通り小池一夫は経歴的にも実績的にも申し分ない、いわば劇画界のレジェンドです。その小池一夫が自ら提唱する「キャラクター原論」が、アニメやゲームといった別ジャンルのコンテンツで、どの程度普遍性を持つのか、対談を通して問いかけていきます。

たとえば「まどマギ」の虚淵玄に対して、こんな風に問いかけます。「僕はキャラクターに名前をつけるとき、口コミで伝わってヒットしやすいように、言いやすくて誰が聞いても分かるような名前を考えるようにしています。ところが『まどか☆まマギカ』では「鹿目まどか」や「暁美ほむら」のように、名字と名前をひっくり返しても成立する不思議なネーミングをされていますよね」

これに対して虚淵玄は「これは多少変な名前にしておいた方が、グーグルなどで検索したときに絞り込みやすいんじゃないかと思ったのが、そもそものきっかけですね」。つまり紙媒体が全てだった時代と、ネット時代では作家をとりまく環境が大きく変化しているわけです。こんな風に本書は時代やメディアによって変わるもの、変わらないものを、対談を通して浮き彫りにしていきます。

続いて小池一夫は「漫画だと、第一話の最初の7ページでしっかりキャラが立ってないと、お客さんの興味を惹くのが難しいんですが、本作はそういった意味でも、紙媒体とはずいぶん違う見せ方をしていますね」と問いかけます。これに対して虚淵玄は「機動戦士ガンダム00」などで知られるアニメ脚本家の黒田洋介にならったとしつつ、独自のシリーズ構成論を披露します。

「まず第一話でいきなり意外性を提示して、視聴者を途方に暮れさせます。(中略)第二話で、物語の世界観やルール(中略)第三話で、前回説明したルール以外の出来事も起こりうることを示す、(中略)この三段階がうまく描けていれば、視聴者は四話以降も確実についてきてくれます」。これに対して「なるほど! その手法に見事に引っかかっちゃったなあ(笑)」と膝を打つ小池一夫。いや〜若いですね!

さらに「僕も今、虚淵さんにならって、『魔法少女三満月美々』という作品を書こうと考えているんです。試しに2本ほど原作を書いてみたんだけど、やっぱり難しいですね」と爆弾発言を披露。ちなみにこの作品、ニコニコ静画で「魔法少女 三満月美々のQED」として第一話が無料公開されています。画面上には続きを求めるコメントが多数。この良いと思った要素を貪欲に取り入れて挑戦する姿勢には敬服させられます。

他にも「ドラクエ」の堀井雄二と「漫画とゲームのキャラクターの起て方の違い」について議論したり、「ヱヴァ」の庵野秀明と「自分はキャラクターをできるだけ単純で簡単に考えるが、『ヱヴァ』は壮大で複雑怪奇な物語で、北極と南極くらい違う」と問題提起を行い、そこから導かれる普遍性について議論したり、「うる星やつら」の高橋留美子や「グラップラー刃牙」の板垣恵介と師弟対談をしたりと、読み応えは十分です。

いくつになっても謙虚な姿勢で学び続け、自らの理論を高めていき、さらなる傑作を世に送り出そうとする小池一夫。まさに生涯クリエイターという感じです。本書をきっかけに興味がわいたら、ぜひ作品の方にも手を伸ばしていただければと思います。
(小野憲史)

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