8月1日、神奈川県山北町のオートキャンプ場で痛ましい事故が起きた。四輪駆動車が流され横転、親子4人のうち3人が亡くなってしまったのだ。
この事故は当初、「神奈川県山北町の」「中州で」起こった水難事故と報道されたため、多くの人があの事故を思い出していた。
1999年の玄倉川水難事故である。
玄倉川水難事故は13名の死者が出た事故だ。神奈川県山北町玄倉川の中州でキャンプをしていたグループの避難が遅れ、救助が難航。テレビクルーの前で流されてしまった映像がメディアで何度も使用され、記憶に残っている。
では、今回のキャンプ場事故(以降、区別のために丹沢水難事故と称す)は「玄倉川水難事故の再来」なのか? ここ数日間の報道は、その答えをはっきり「ノー」と告げている。
丹沢水難事故と玄倉川水難事故の違いを整理しよう。


■増水の直接的原因

どちらの事故も、川が大きく増水し、そのために流されてしまったものだ。しかし、増水の直接的な原因は異なっている。

丹沢水難事故は、事故発生の直前に起こったゲリラ豪雨のような突発的な激しい雷雨によって急激に増水。いわば鉄砲水が発生し、車を横転させたとみられている。水位はかなり上昇していたが、中州の一部は残っていた。


一方、玄倉川水難事故は、事故の数日前から、台風の影響で降雨量がひじょうに多い状態だった。さらに局地的豪雨が加わり、事故現場の上流にある玄倉ダムの保水量が限界に。ダムの決壊を防ぐために、管理者側はダムの放流を決定した。中州は残らなかった。


■事故現場

事故現場は両者ともに神奈川県山北町で、いくつかのメディアでも「あの玄倉川水難事故と至近」と報道している。確かに直線距離としては近いが、地図上で見ると違いがわかる。
(下の画像はGoogle Map上で作成)
神奈川キャンプ場水難事故は「玄倉川水難事故の再来」なのか

真ん中上部の赤いマルが丹沢水難事故現場。右側の青いマルが放流をした玄倉ダムで、真ん中下部のピンクのマルが丹沢湖(三保ダム)である。玄倉川水難事故の現場は、青マルとピンクマルの間にある。事故現場を走る二つの川は、丹沢湖で合流している。
こうして見ると、現場どうしが上流・下流の関係にないことがわかる。丹沢水難事故現場の上流にはダムはなく、川の蛇行のしかたも若干異なるため、玄倉川水難事故と同じ・似ているとは言えないのだ。



■当日の周囲の対応

もっとも異なる点は、周囲の対応だ。

玄倉川水難事故がこんなにも記憶に残っている理由は、被害者側の対応にある。当時、周辺では何度もダム放流の警告が流れており、他のグループはみな避難していた。また、管理者が再三避難をうながしている。それを頑なに拒否(何人かは警告に従って避難した)。

〈(56歳の男性は)「安否確認」(県警)のためひざまで水位のある川を徒歩で渡ってテントまで行ったが、「全員が熟睡していたため、対岸に引き揚げた」〉
〈(安否確認に行った男性が)「『危ないから引き上げた方がいい』とテントの中に声を掛けたが、目を覚ました男性に『大丈夫だ。
昨日(の夜の降り方)と同じだよ』と言われ、深刻に受け止めてもらえなかった」〉

こうした文字列が、当時の新聞(引用は1999年8月16日の毎日新聞東京夕刊より)には並んでいる。水難事故には珍しく被害者を責めるムードまで生まれていたことが、当時の報道からうかがえる。

では、丹沢水難事故はどうだったのだろう。突然の豪雨で水位が上がったが、避難を促す警告や放送はなかったと伝えられている。中州は「四輪駆動車専用」のキャンプ場とされており、ふだんなら足首くらいの深さの川を通らないと渡れない場所だった。被害者の男性はいったん車で中州を離れ、売店の従業員に避難が必要か確認。
「可能ならば避難したほうがいい」との言葉を受け、中州に戻り避難を始めたところで、車が横転してしまった。

また、キャンプ場の責任問題である面もある。丹沢水難事故が起こってしまったキャンプ場は、無許可で中州の拡張工事を行っていた。水の流れを許可なく変えることは河川法違反であり、2008年から2011年のあいだ計6回行政指導を受けている。水の流れを変えれば、勢いや水量の変化にも影響が出てくる可能性がある……このことから、今回の事故は「事故」ではなく「人災」だと非難する人も多い。


むしろ、今回の丹沢水難事故に近いのは、2008年に兵庫県で起こった都賀川水難事故かもしれない。局所的な集中豪雨で、都賀川の水位が急激に上昇。川の中や河川敷にいた16人が流され、5人が死亡した。都賀川の大規模な河川改修工事が、こうした急激な水位上昇を招いたとも言われている。また、事故当時は大雨洪水警報が発表されていたが、事故現場の近くにアナウンス施設はなく、周辺の人々は警報を聞くことができなかった。
「神奈川県」「中州」といったキーワードが重なると、2つの水難事故を重ねてしまうのも無理はない。もちろん、「中州は川底と同じでキャンプには向かない場所」といった情報を共有し、水難事故を減らすことも大切だ。けれど今回の事故と玄倉川水難事故は、いくつかの点ではっきりと異なっている。
(青柳美帆子)