こうした交流イベントで交わすことのできる会話は、限られた時間内でのこと、ごく短いものになるだろう。
そんなニーズに応えてくれるのが、今回紹介する『世界のギター・ヒーロー50人に聞いた500の素朴な質問』である。これは、アメリカのギター雑誌『Guitar World』の人気企画「Dear Guitar Hero」をまとめたもの。世界的に有名なロック・ギタリスト50人が、ファンからぶつけられるさまざまな質問に答える、Q&A式の本である。質問の内容は、大まかに以下のタイプに分けられるだろうか。
1.使用するギターおよび演奏について
2.影響を受けた音楽/ミュージシャンは?
3.バンド・ヒストリーについて
4.生き方/ライフスタイルについて
5.ぶっちゃけ、どう思ってる?
プレイヤーがメイン読者層であるギター誌ゆえ、まずは1と2が基本となる。「ギターは何を使っている?」「あの曲のギターソロはどうやって弾いている?」「ギターを弾くようになったきっかけは?」等、奏法や使用機材、ルーツに関する質問である。このへんは、読者がギター経験者であれば、より興味深い内容となるだろう。
また、1・2の範疇だが、技術的な話題から敷衍して、ミュージシャンとしての「信念」を引き出す質問もあり、大きな読みどころとなっている。例えば、スラッシュメタル四天王の1つとして有名な「メガデス」のフロントマン、デイヴ・ムステインへの質問。
ギターの音量を下げて、クッキー・モンスターみたいなヴォーカルに合わせるためにパーカッション的な楽器として使ったら、それはギターの本来の使われ方じゃない。
ソロを弾かないギタリストの大半は、ソロを弾くことが出来ないんだ。
と、皮肉たっぷりにギターソロの重要性を力説する。「最近の若いモンは」感も無きにしもあらずだが、左手の橈骨神経麻痺というギタリスト生命の危機を経験しながら、見事復活を果たした事実を踏まえれば、「ギタリストの矜持」ゆえの発言だと分かるはずだ。
そして、演奏経験の有無は関係なく、ロック・ファンなら誰でも楽しめるのが3〜5だろう。狂ったロックンロール・ライフをサヴァイヴしてきた百戦錬磨たちだけあって、ブッ飛んだエピソードには事欠かない。
例えば、セックス・ドラッグ・ロックンロールの権化「モトリー・クルー」のミック・マーズ。彼は、バンドのなかで最年長ということもあり、ヤンチャな他3人に比べると、物静かな印象がある。オーバードースで倒れたり、警官と小競り合いをしたり、車で死亡事故を起こすといったトラブル三昧のメンバーたちと、30年以上もの長い期間、活動を共にしてこられた秘訣について尋ねられ、
俺専用のバスがあるからさ(笑)。自分専用のバス、ホテル、楽屋という個人的なスペースと時間を持つこと。それが秘訣さ。
と答える。
とはいえ、そんなミックにしても「酔っぱらってドラッグでラリって、ステージから落っこちる。もちろん、俺は全部経験済みさ」とのこと。周りが輪をかけてメチャクチャだったから目立たなかっただけで、やることはやっていたわけだ。
こうした「ロック・スターあるある」も本書の読みどころだが、もしかしたらそれ以上に目玉かもしれないのが、「そんなこと聞いて怒られない?」と心配になるような、少々悪ノリが過ぎる質問の数々である。例えば……
元「ガンズ・アンド・ローゼス」のスラッシュには、喧嘩別れしたヴォーカリストである「アクセルの股間を蹴りたい衝動にかられますか?」、立派な口髭を持つ「ブラック・サバス」のトニー・アイオミには「どこのヒゲそりが好きですか?」、前述のジミー・ペイジには「楽器屋に行って“Stairway To Heaven”を弾いたことはありますか?」(アメリカでは、楽器屋でツェッペリンの名曲「Stairway To Heaven(天国への階段)」を弾くとヒンシュクを買うという都市伝説がある)。
こんなふざけた質問にもちゃんと答えてくれるのだから、3人とも大人である。
だが、なかにはアウトな質問もある。というか、相手が悪いとも言えるのが……。そう、早弾きの王者ことイングウェイ・マルムスティーンである。
今のスタイルを改革するつもりはないですか? あなたの音楽が好きな僕の知り合いの99%が「イングウェイは、何度も繰り返し同じレコードを作っている」と言っています。
はマズイだろう。さらに極めつけは、
あなたを傲慢だと非難する人たちに、どのような反応をしますか?
「あーあ、言っちゃった……」である。怒るのもやむなし。というか編集部だって、狙ってこの質問を持っていってるに違いないので、まあ確信犯だろう。これにどう答えるかは、ある意味、本書のハイライトの1つだと思うので、ここには書かないでおこう。ぜひ本で確認して欲しい。
『世界のギター・ヒーロー50人に聞いた500の素朴な質問』は、ギター・プレイヤーはもとより、登場するギタリストのファン、ロック系ゴシップ愛好家まで幅広く楽しめる一冊だ。もし、これをきっかけに「セックス・ドラッグ・ロックンロール」の世界に目覚めた向きには、『the dirt モトリークルー自伝』『アイ・アム・オジー オジー・オズボーン自伝』(いずれも、シンコーミュージック刊)や、「モーターヘッド」のフロントマン、レミー・キルミスターのドキュメンタリー映画『極悪レミー』(キングレコード)あたりをオススメしておきたい。
(辻本力)