
●きっかけは、震災が発生する前に三陸を訪れたことだった
湯浅さんはもともと、乗り物に乗ったり、旅行に行くのが好きだったのだが、なぜ都区内のコミュニティバス82路線を全て乗ろうと思ったのだろうか。
「ちょうど、震災が起きる半年前に三陸地域を旅したんです。その時に、行こうと思っていた神社があったのですが、時間がなくて『また来ればいいや』と思ったんです。すると震災が起きてしまって、その神社も被害に遭ってしまい、二度と行かれなくなったんです。あの時に足を運んでいれば、何かを記録することだけでもできてたのではないか……と後悔したんです」
初めて訪れた地域のことは知らないことばかりだが、実は自分が住んでいる地域も把握していないことが多いことに気づいた湯浅さん。
「それがきっかけで、東京の日常を記録しようと思ったんです。何を記録するかいろいろと考えた結果、既存の公共交通では移動が不便な地域住民向けに運行されているコミュニティバスを選びました。コミュニティバスに乗った時の記録を中心にしていけば、その地域のことが少しでも資料として残せるのではないかと思ったんです」

湯浅さんは、この本を国会図書館に納めている。ウェブサイトに残すのではなく書物にしているのは、形を残すためだったという。
「今すぐには役に立たないかもしれませんが、例えば、夏目漱石が書いたような小説を読むと、文中に1杯のそばが幾らだったかが書いてあるだけで当時の物価が分かるように、数十年、数百年経ってこの本を紐解いた時に、誰かの何かの役に立てたら嬉しいです」
湯浅さんの熱い思いが、未来に届きますように。
(取材・文/やきそばかおる)
●『コミュニティバス旅行記』(湯浅祥司著)
詳細は『そよ風文芸食堂ブログ支店』のサイトにて。
『コミュニティバス旅行記』総合版はオールカラー182ページの大作で1500円。毎年5月と11月に東京で開催される『文学フリマ』のみで頒布。(通販はありません)