「私、失敗しないので。」「致しません」と、ふてぶてしい決め台詞を吐く、フリーランスの外科医・大門未知子(米倉涼子)。
彼女の痛快な活躍を描く天下無双の高視聴率ドラマ「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」第3期の最終回(18日木曜、午後9時〜テレビ朝日)に当たり、このドラマがなぜ毎回視聴率20%を超える人気なのか考えていたら、女優・高畑淳子に行き当たってしまったのである。


高畑淳子(たかはた・あつこ)は、ホームグラウンドの舞台から、バラエティー、ドラマと幅広く活躍し、2014年、秋の叙勲で紫綬褒章を受章している。「大門未知子」では第3期レギュラー。そして、今期、「大門未知子」の次に視聴率の高い、平均視聴率15%超えの「きょうは会社休みます。」(日本テレビ、水曜10時〜 17日に最終回を迎えた)のレギュラーでもあった。
水、木続けて、高視聴率ドラマに出ているとは、なにやらありがたい感じがするではないか。

ではまず、本日最終回放送の「大門未知子」における高畑淳子を見てみよう。

崩壊し続ける白い巨塔。本来あるべき姿を完全に見失い、出世と金の亡者だらけの医療の世界。その医学の頂点に立つ特定機能病院「国立高度医療センター」の看護師長・白木淳子を高畑は演じた。

白木はビッグマザー的な貫禄があって、仕事熱心。センターの総長・天堂義人(北大路欣也)への恋慕にも近い(?)強い忠誠心をもち、10話では、センターのために、えげつない医者・富士川清志郎(古田新太)の身代わりになって辞職しようとまでした健気な人物だ。

そんな彼女だから、組織に縛られない未知子とは何かとぶつかってもきた。
だが、時にハメを外して、麻雀やカラオケに激しく興じる様がなんだか憎めない。
未知子の師匠でありマネージャーの神原晶(岸辺一徳) が「看護の道ひとすじに生きて来た女の凄みと哀愁がある」(10話)と表す白木の歌う姿は、7話で彼女が「打たれても、打たれても、女は闘っていくしかないんです」と思わず吐露してしまったシーンと重なり、しんみりさせる。

組織に生きる女と、一匹狼の違いはあれど、たぶん、白木は大門未知子のもうひとつの姿なのではないかとすら思わせる。とか言うと、もし未知子が実在したら怒る気がするが、頭ごなしに否定するものでもないと思うのだ。
未知子が、趣味も特技も「手術」で、「失敗しない」と言いはり続けるのは、自分が失敗したら、患者の生命はそこで終わってしまうという強い責任感から。
名前から「デーモン」なんて忌み嫌われもしているが、非情に見えて、ものすごく情の深いのが大門未知子だ。
未知子にだって「手術の道ひとすじに生きて来た女の凄みと哀愁」が既に備わっているけれど、白木ほどメロウにならないのはまだまだ若いから。それで、肩や腕や足をむき出しにして突っ張っている。
未知子が表に出さない、歯を食いしばって生きる演歌的な部分を、高畑淳子が存分に見せてくれた。

1期(メイン脚本家・中園ミホ)では、未知子の過去のトラウマなどがミステリーふうに描かれていたが、2期、3期(メイン脚本家・林誠人)と続く中で、未知子個人の謎が減っていく分、最終回で生死の境を彷徨うことになる神原や、看護師長のようなキャラクターによってドラマが補われる。

次に、「きょうは会社休みます。」の高畑淳子。
彼女が演じていたのは、主人公・花笑(綾瀬はるか)のお母さん・光代。30歳まで処女だった娘が、急に、イケメンの年下男子(福士蒼汰)に好かれて、慣れない恋愛にあたふたする様を、心配しつつ、愛情いっぱいに見つめる。
公式サイトによると「元教師で明るく快活」「花笑と晩酌するのが日課」「娘の不器用さを気にかけている」というキャラクターだ。
たぶん、お母さんもお父さん(浅野和之)も実直で、それを娘が受け継いで、ちょいとこじらせてしまったんだろうなあと想像させる。
正直、花笑が各場面で経験するドリーミー過ぎる展開に、いらっとすることも多々あったが、家庭の場面になるとなんとなくホッとさせられたのは、娘の行動に一喜一憂する、高畑の地に足のついた演技のおかげとも言えそうだ。
どんなに主人公が浮ついていても、この母の娘なのだから、大丈夫という安心感か。

だって「実直」なんだもの。

「大門未知子」の看護師長も「実直」」という言葉が似合う。「実直」な人物を演じさせたら、高畑淳子無双である。「実直」の、良いところも、可笑しさも、高畑淳子の演じるキャラにはある。だから、同じ「実直」キャラなのに、顎を引くだけ引いて首が太く見える頑丈そうな看護師長と、ふわっとキレイにセットされた毛先に覆われた顎すっきりの知的なお母さんは、全然違って見える。そこがすごい。明るいキャラ、暗いキャラ、悪と善など、真逆な役を全く違って演じ分けることよりも、実直な善人をいろいろな表情で演じられる懐の深さが女優・高畑淳子だ。

そして、高畑の実直キャラと言ったら、もうひとり。
あの夏、7月期、猛暑の狂気のように盛り上がった「昼顔〜平日午後3時の恋人たち」(フジテレビ)の主人公(上戸彩)の姑・笹本慶子である。
皆さん、覚えていますか? 息子夫婦の生活に何かと干渉してくる空気のよめないお姑さん。実は、亡き夫の浮気がトラウマになっていたことが後に判明し、主人公の不倫に激しく拒否反応を示す。
面倒くさいけど、悪い人じゃないし、むしろ、わかるわあ・・・と思わせてくれたのが、お姑さんだった。
高畑淳子は、「昼顔」では、じめじめ重くなりそうな不倫世界に、とぼけたユーモアをまぶして、息抜きさせてくれていた。この時の彼女は、ちょっと前屈みで、口元緩めで、台詞の喋り方もゆっくりだった。

ただ、実直だからといって地味ではないのが高畑の魔力で、高畑の役には、誰もが自分の物語の主人公たる気概のようなものを感じるのだ。舞台で「欲望という名の電車」の主役・ブランチを演じたりもする高畑は、ドラマでも、主人公を生かす存在でありながら、円熟味ある脇役に徹するのではなく、まだまだ現役感をチラチラと出してくる。「眠れる森の美女」のマレフィセントみたいな感じ。それこそが、ドラマを活性化すると同時に、幅広い層に受けるものにしているのではないだろうか。

高畑淳子、劇団青年座の取締役をつとめていて、個人のサイトでは、「毎日、子育て、家事に追われつつ
役者業をやっています。
日々の活動を皆様にお伝えしたくて、ホームページを作ってみました。


一人でも多くの方々が、「劇場」というお祭り空間に足を運んで下さる事を願っています。」と書いている。
この文章も実直きわまりない。

2014年の半年間、我々は、高畑淳子に楽しませてもらった。
来年はどんな作品で会えるだろうか。(木俣冬)
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