2015年は未年。ということで、午年だった昨年に続き、今年も年男・年女の著名人をあげてみたい。


未は十二支(子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥)の一つだが、昔の人はこれに十干(じっかん。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸)を組み合わせて、年や月日、時間を数えてきた。年を数える場合、この組み合わせは60年で一回りする。ここから満60歳を「暦が還る」、すなわち還暦として祝う習慣が生まれた。

十二支でいえば今年は「乙未(きのとひつじ/おつび)」にあたる。今年還暦を迎えるのは、前の乙未の年、1955(昭和30)年に生まれた人たちだ。歌手・俳優の西城秀樹もまた、今年4月に還暦を迎える。かつて西城の出演するカレーのCMの「ヒデキ、感激!」のフレーズから、「ヒデキ、還暦 !」のダジャレが生まれたが、その年をついに迎えたのだ。ここ10年あまりのあいだに二度も脳梗塞を発症した西城だが、懸命のリハビリで芸能活動に復帰し、昨年10月には東京の中野サンプラザでコンサートを行なっている。

西城は1972年にデビューし、ほぼ同期の郷ひろみと野口五郎とともに「新御三家」と呼ばれた。このうち野口は一つ年下だが、郷はやはり今年還暦である。同年代でデビューしたアイドルにはまた、アグネス・チャンやキャンディーズの伊藤蘭がいる。


1955年生まれの著名人にはこのほか、タレントの所ジョージ、明石家さんま、ラサール石井、落語家の春風亭小朝、歌舞伎役者の十八代中村勘三郎(故人)、劇作家・演出家の野田秀樹、渡辺えり、女優の高橋恵子、田中裕子、映画監督の黒沢清、滝田洋二郎、マンガ家のいがらしみきお、鳥山明、ミュージシャンの矢野顕子、竹内まりや、Char、世良公則、松山千春、作曲家の細川俊夫、美術家の大竹伸朗、岡崎乾二郎、直木賞作家の安部龍太郎、世田谷区長の保坂展人などといった人たちがいる。さらにスポーツの分野では、プロ野球の掛布雅之、江川卓、大野豊、第58代横綱で史上最多の通算1045勝を誇る千代の富士(現・九重親方)、プロボクシングの元ライトフライ級王者で、昨年には世界ボクシング殿堂入りも果たした具志堅用高、自転車の世界選手権で10連覇を達成した中野浩一と、各界で一時代を築いた名選手が並ぶ。

上記のうち中村勘三郎は生前、野田秀樹や渡辺えりと新作歌舞伎を手がけ、また明石家さんまや江川卓とも親交があった。野田がかつて主宰した劇団「夢の遊眠社」は、キャンディーズ解散後の伊藤蘭の客演により一気に知名度を上げたというし、また、さんまは春風亭小朝とテレビで漫才を披露したことがあったりと、この年生まれの著名人にはつながりの強さがうかがえる。

ここからは、ほかの未年に生まれた著名人も年代ごとに見ていきたい。ただし、とりあげるのはスペースの都合から20世紀生まれ限定、原則として日本人限定とした。また、厳密にいえば、干支は旧暦で計算するので、新暦の1月生まれの人は前年の干支に含めるのが正しいようだが、ここでは現在の暦にしたがって人選したことをお断りしておく。

■1907(明治40)年生まれ 丁未(ひのとひつじ/ていび)
戦前より活躍し、「ブルースの女王」と呼ばれた歌手・淡谷のり子は、晩年はモノマネ番組の審査員としてもおなじみだった。淡谷の歌った「別れのブルース」のほか、「東京ブギウギ」「青い山脈」など戦前・戦後を通じて流行歌を多数生んだ作曲家の服部良一もまた、この年の生まれである。

1907年生まれの著名人にはこのほか、作家の井上靖、高見順、藤枝静男、山岡荘八、文芸評論家の亀井勝一郎、平野謙、児童文学者の石井桃子、陸上選手で日本女性初のオリンピックメダリストである人見絹枝、日本人で初めてノーベル賞を受賞した物理学者の湯川秀樹、経済史学者の大塚久雄、社会学者の清水幾太郎、民俗学者の宮本常一、元首相の三木武夫、テレビの時代劇「水戸黄門」で初代黄門役を務めた東野英治郎、「旗本退屈男」が当たり役だった市川右太衛門などがいる。

■1919(大正8)年生まれ 己未(つちのとひつじ/きび)
1919年にフランスのパリで開催された第一次世界大戦の講和会議は、日本が初めて欧米諸国と肩を並べて参加した会議だった。宮澤喜一はまさにこの年に生まれ、第二次世界大戦後には、大蔵省の先輩・池田勇人(のち首相)の秘書官として講和条約の準備に携わった。
その後、宮澤は国会議員となり、早くから首相の呼び声も高かったが、実際に就任したときには72歳となっていた。首相をやめたのちも80歳を前にして小渕内閣の大蔵大臣を務めている。

このほか、評論家の加藤周一、サントリー社長を務めた佐治敬三(創業者・鳥井信治郎の次男)、『砂の器』などで知られる映画監督の野村芳太郎、狂言師の四代目茂山千作、プロ野球・巨人で活躍し、引退後は近鉄で監督を務めた千葉茂(バファローズというチーム名は、千葉の近鉄監督就任にともないその愛称「猛牛」からつけられた)も1919年生まれだ。さすがに故人が多いが、俳人の金子兜太のように90代半ばとなったいまなお活躍している人物もいる。

■1931(昭和6)年生まれ 辛未(かのとひつじ/しんび)
満州事変が勃発した1931年には、昨年亡くなった高倉健や宇津井健をはじめ、「カツライス」と称され大映京都の二枚看板だった勝新太郎と市川雷蔵、また久我美子や山本富士子と、戦後の日本映画を代表するスターがあいついで生まれている。このほか、宝塚歌劇出身の女優の八千草薫も、松竹出身の映画監督の山田洋次と篠田正浩もこの年の生まれ。

京都大学在学中からの友人だった小松左京と高橋和巳、1950年代に「才女」ともてはやされた有吉佐和子と曽野綾子をはじめ、三浦哲郎、団鬼六、深田祐介、赤瀬川隼など1931年生まれには小説家も多い。このほか同年生まれの著名人としては、児童文学者の山中恒、詩人の谷川俊太郎、大岡信、白石かずこ、国連の元事務次官の明石康、建築家の磯崎新、文化人類学者の山口昌男、コメディアン・俳優のいかりや長介、芦屋雁之助、大村崑、作曲家の中村八大、宮川泰、すぎやまこういち、マンガ家アパートと知られるトキワ荘の兄貴分だった寺田ヒロオ、冬季オリンピックの日本選手初のメダリストでIOC副会長も務めたスキー選手の猪谷千春があげられる。

■1943(昭和18)年生まれ 癸未(みずのとひつじ/きび)
猪谷千春のコルツィナダンペッツォ冬季オリンピックのスキー回転による銀メダルから16年後の1972年、猪谷より一回り下の未年の笠谷幸生が地元・札幌冬季オリンピックのスキージャンプ70メートル級で日本選手初の金メダルを獲得する。スポーツ界ではまた、プロボクシングの元世界王者のファイティング原田と輪島功一、元プロレスラーで参院議員のアントニオ猪木がいずれも1943年生まれ。                                         
この正月を前に総務省が発表した未年生まれの人口は1007万人で、出生年別では1943年生まれは164万人と、188万人を数える1967年生まれに次ぐ。そのせいもあってか、俳優の北大路欣也、田村正和、樹木希林、落語家の桂文枝(元・三枝)、タレントの加藤茶、関口宏、歌手の橋幸夫、加藤登紀子、小室等、考古学者の吉村作治など、いまもテレビでよく見かける人物も多い。
このほか作家の丸山健二、マンガ家のジョージ秋山、将棋棋士の米永邦雄、ファッションデザイナーの山本耀司、NHK会長の籾井勝人も同い年。なお、北大路欣也は三回り上の市川右太衛門と親子そろって未年ということになる。

■1967(昭和42)年生まれ 丁未
昨年、かつて指導した錦織圭が全米オープンで準優勝したことであらためて注目を集めた元プロテニス選手の松岡修造をはじめ、プロ野球の清原和博、バレーボールの大林素子、柔道の古賀稔彦、サッカーの三浦知良、中山雅史と各競技のスター選手が並ぶ。三浦カズにいたっては、48歳となるいまもJリーグ最年長選手として現役を続けている。

1967年生まれの著名人にはこのほか、現在毒舌キャラとしてバラエティ番組に引っ張りだこの俳優・坂上忍、作家の角田光代、西村賢太、歌手の坂本冬美、秋川雅史、声優の林原めぐみ、矢島晶子、マンガ家の矢沢あい、武内直子、松本大洋、女優の南野陽子、原田知世、天海祐希、元タレントで参院議員の蓮舫、ミュージシャンの草野マサムネ(スピッツ)があげられる。

さらに脚本家の坂元裕二は、24歳の年男だった1991年、同い年の織田裕二、江口洋介、有森也美らの出演した『東京ラブストーリー』でヒットを飛ばした。もっとも、90年代前半に中高生だった私には、同じ年の生まれでも伊集院光、松村邦洋、東野幸治、電気グルーヴのピエール瀧と石野卓球、浅草キッドの玉袋筋太郎、さまぁ~ずの三村マサカズと大竹一樹といった人たちのほうが馴染み深いが。そういえばラジオ番組「松村邦洋のオールナイトニッポン」では、初回放送がちょうど松村と同い年のアイドル歌手・岡田有希子の命日だったため、番組冒頭で彼女の「くちびるNetwork」が流されていたのを思い出す。岡田以外にも、ZARDの坂井泉水、ミュージカル女優の本田美奈子.と早世した人も目立つのが惜しまれる。
  
■1979(昭和54)年生まれ 己未
昨年から俳優同士の結婚があいついでいるが、そのうち仲間由紀恵、国仲涼子、中越典子は今年が年女ということになる。このほか、昨年のソチ冬季オリンピック後に引退したスキー・モーグルの上村愛子、プロ野球の阿部慎之助、サッカーの小笠原満男、稲本潤一、ジャズピアニストの上原ひろみも同い年。なお、文学賞のひとつ三島由紀夫賞では、2012年から昨年まで、青木淳悟、村田沙耶香、本谷有希子と奇しくも1979年生まれの作家の受賞が続いている。


■1991(平成3)年生まれ 辛未
湾岸戦争に明け、ソ連崩壊に暮れた(日本ではバブル崩壊の年でもある)1991年。AKB48のメンバーにはやけにこの年生まれが多い。卒業した前田敦子、板野友美、今年末に卒業を予定している高橋みなみはいずれも1期生としてAKBのブレイクに貢献した。現役メンバーには高橋のほか、小林香菜、柏木由紀(NMB48と兼任)、大家志津香、北原里英、高城亜樹、上海のSNH48に移籍した鈴木まりや、さらに姉妹グループのSKE48の松井玲奈(乃木坂46と兼任)、高柳明音(NMB48と兼任)、須田亜香里がおり、グループの中核を担っている。

この年に生まれた著名人にはほかに、プロゴルファーの石川遼、プロ野球・埼玉西武ライオンズの菊池雄星、モデル・女優の山本美月、昨年3月まで放送されたNHKの朝ドラ「ごちそうさん」で好演した女優の高畑充希、声優の上坂すみれなどがいる。
(近藤正高)
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