「年末年始に読むのに最適な本ですよ。ぼくはこれから年末年始はこの本を読むのを習慣にしようと思ってます」
とブック・コーディネイターの内沼晋太郎さんが年末のイベントで絶賛してたので、ぼくも読んだ。

『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』、原題は、“DAILY RITUALS:How Artists Work”。
“クリエイティブな仕事を残した人々はいったいどんな生活をしていたのだろう。過去から現在までの著名な作家、芸術家、音楽家、思想家、学者など一六一人をとりあげて、それぞれ仕事、食事、睡眠、趣味、人づきあいなどにどう時間を割り振っていたかを紹介したのが”この本。

いくつか紹介しよう。
たとえば、SF作家のアイザック・アシモフ。
彼は、こどものころ父の経営する何件もの菓子屋を手伝っていた。
営業は午前六時から午前一時まで。
その菓子屋時代の労働習慣をずっと守って、朝五時に起きて、できるだけ長く働く。休日もなし。

『スタンド・バイ・ミー』『シャイニング』のスティーヴン・キングもハードワーカー。
“誕生日も休日も休まず、一日二千語というノルマを達成するまでは、決してペンを置かなかった”

進化生物学者、『ワンダフル・ライフ』のスティーヴン・ジェイ・グルードになると、“私にとって、仕事は仕事じゃない。
単に日々やっていることで、それが私の生活なんだ”である。

“「生活と仕事の2つがひとつになっている。それを異常というなら、たしかに僕は異常だ」”と言う天才ピアニストのグレン・グルードは、だがピアノに向かう時間は少なかったそうだ。練習は一日に一時間か、それよりも少ない。
“「いちばんいい演奏ができるのは、一ヶ月くらいピアノにさわっていないとき」らしい”
というふうな、161人の天才たちがクリエイティブを発揮するために日々をどのように過ごしているかというエピソードが満載。

しかも、ひとりにつき、半ページから、三、四ページの短さにまとまっていて、ほぉー、へぇーと小気味良く読める。

日々の規則が決まっている人が多く紹介されているが、『薔薇の名前』のウンベルト・エーコのように「私は予定通りに行動することができない」と言う天才もいる(とはいえ、インタビュアーにさらに聞かれて、日課のようなものを語っているのだが)。
ドイツの文豪ゲーテは、気分がのらない日は書かない。「そんなときに書いたところで、あとから読んで満足のいくようなものは生まれない」とさえ言う。

クリエイティビティを発揮するための源になる習慣もたくさん登場する。
パトリシア・ハイスミスは、“執筆を始める前に強い酒を飲む習慣が”あった。

トーマス・ウルフは、ホテルの部屋の窓の前に裸で立つことで、創造的エネルギーをかきたてた。
アメリカ独立宣言の起草者ベンジャミン・フランクリンも全裸派。朝早く起きて全裸で自分の部屋ですわっている。
ヘミングウェイは、「自分をごまかさないため」に、毎日、書いた語数を表に記録していた。
デイヴィッド・リンチは、瞑想を欠かさない。

散歩することが発想の源になる人が多い。

ジークムント・フロイトの散歩は、ものすごいスピードだった。
村上春樹は、午後はランニングか水泳。
グスタフ・マーラーは、湖まで歩いていって泳ぐ。
ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、散歩は作曲の役に立ったという。
哲学者キルケゴールは、最高のアイデアが浮かぶのはいつも散歩中。
フェデリコ・フェリーニは、朝六時に起きて、家じゅうを歩きまわる。

ウディ・アレンは、散歩をしていると、人に見つかって話しかけられるので、代わりにアパートのベランダを行ったり来たりした。

まあ、よく、これだけたくさん集め、それをぎゅっと圧縮して書いたな、と驚く。
「はじめに」によると、著者のメイソン・カリーは、朝型人間。
朝は集中できるが、昼食後はダラけてネットサーフィン、ほかの作家の仕事時間について調べていると、それがおもしろくなってしまい「デイリー・ルーティン」というブログを立ち上げる。
その果てに、この本ができあがったそうだ。

読んでいると、天才たちの日々の雰囲気が伝わってくる。
その多彩さに、天才というのはやはり孤高だなと思ったりもする。
同時に、とても人間味にあふれていて、自分と天才の共通点を見つけて嬉しくなったりもする。

一番、いいなーと思ったのはマーク・トゥエインの日課。
朝食のあと離れに行き、昼食もとらずに五時の夕食の時間までそこにいる。
夕食が終わると、その日書いたものを、集まった家族の前で読む。
日曜日は、家族とのんびり過ごす。
年始、『天才たちの日課』を読んで、自分の日課を振り返るのオススメ。
(米光一成)