●冒頭のルウム戦役は手描きアニメとCGの集大成
ガンダム専門誌『ガンダムエース』誌上で連載されていた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の最終回でアニメ化が発表されてから、はや3年。あの話はどうなったのかな……と遠い目で振り返っていたところ、2月15日に日比谷公会堂にて試写会決定! 通常の3倍の速さで(慣用句)行ってきました。
以下、ファースト(『機動戦士ガンダム』)は見ているものとして、細かい説明は省略するよ!

この試写会で公開された『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 青い瞳のキャスバル』の原作は、コミック9〜10巻のシャア・セイラ編。おなじみ赤い彗星のシャアとセイラの兄妹がまだキャスバルとアルテイシアと呼ばれていた幼い頃の、ファーストの過去に当たるお話。全4本予定のうち、第一話である。
すでにWebでも公開されている冒頭7分の映像は、連邦軍とジオン軍が激突するルウム戦役。この戦いは両陣営がほぼ全ての艦艇を投入しており、物量についてはファーストの終幕を飾ったア・バオア・クーの戦いを上回っている。
とにかく「デカイ画面を埋め尽くす物量の凄まじさ」は圧倒的。シャアザクが船を沈めては次のエモノに襲いかかる「八艘飛び」のスピード感もバツグンだ。このシーンの演出を担当した板野一郎氏はファーストに参加した一方で特撮・アニメの垣根を超えて国内CGの進化に貢献した人物で、「手描きアニメとCGの融合」の集大成といえる。

●安彦キャラが原作そのままに動く感動!ハモンとドズルに激萌え
さて本編。こちらはまず、安彦良和さんの生み出したキャラクター達が、原作の繊細なタッチそのままで動くことに腰が抜けそうになる。ファーストの劇場版三部作も新規作画パートは凄かったが、安彦ワールドの時間が一瞬も途切れなく続く感じ。世界でもトップクラスに人物がうまい人の絵に命が吹き込まれ、アニメの快楽中枢を刺激されっぱなしだ。

そして舞台は、ジオン共和国になる前の陰謀が渦巻くムンゾ共和国。『ヴイナス戦記』や『クルドの星』など“政変”や“革命”を描くことに心血を注いできた漫画家・安彦良和にとってのホームと言えるが、人々が躍動する背景となる都市の美術の素晴らしさ。建ち並ぶビルや政治家の豪邸から小汚い路地裏や場末のバーまで「宇宙に人が街を作るとはこういうことだ」が隅々まで作り込まれている。
連邦からの独立運動を指導するムンゾ共和国議長ジオン・ズム・ダイクンが議会での演説中に急逝した(暗殺と言われる)ときから、その遺児であるキャスバルとアルテイシアの運命の流転は始まる。
とはいえ、二人はまだ年端も行かない子ども。よって前半の軸となるのは、権力を掌握しようとするザビ家と、そうはさせじと抵抗するラル家との主導権争いだ。モビルスーツに乗らないおじさん達がダイクンの遺児を奪い合うのは古典的なドラマでもあり、「ロボットアニメ」だったガンダムとしては斬新だ。
そこでは「今まで設定はあったが名前だけ」だったキャラクター達がいきいきと活躍している。ラル家の当主ジンバ・ラルは、息子のランバ・ラルそっくりだけど小心者。長男ギレンと三男ドズルの間にいた次男サスロ・ザビもスクリーンにデビュー! すぐに退場するものの「嫌な奴だが仕事はできる」存在感を残すのは、さすがザビ家の端くれだ。
 若き日のザビ兄弟たちは「知り合いの昔のアルバム」を見てる感じで、仮面を被ってない素顔のキシリアは騎馬隊をさっそうと率いて凛々しいのなんの。ギレンは変わりないとして(若くして貫禄ありすぎだ)ドズルは兄弟げんかにオロオロしたり、人の良さ丸出しで萌えキャラだ。
「ジオンの中で一番いい人」の遺伝子が後のミネバ(『機動戦士ガンダムUC』のヒロイン)まで受け継がれたのも頷ける。
そこまでは想定通りとして……クラウレ・ハモンさんの可愛さが、もはや単体で大気圏に突入できるレベル。酒場の歌姫もいいが、連邦士官の変装もマチルダさんを超えたかも(個人の感想です)。若くしてあの色気、連邦士官へのハニートラップもこなしてザビ家の裏をかけるなんて、できる女にもほどがある。
そんな彼女のハートを射止めたランバ・ラルも、ファーストでの非業の死を拭い去るような快男児ぶり。中でも幼いアルテイシアとの交流がほのぼのしていて、そりゃあ後にホワイトベースでばったり出くわしても発砲はしないよねと。
で、キャスバルとアルテイシアの二人は…それは2月28日から公開が始まる劇場で見届けてもらいたい。二人とも幼くしてファーストの名場面がまぶたに浮かぶ振る舞いをしていて、キャスバル=シャアとアルテイシア=セイラの顔が二重写しになることだろう。

●トークショーで語られた『巨神ゴーグ』以来の絆
約1時間とは思えない濃密すぎる映像体験のあとは、顔ぶれが豪華すぎるトークショー。原作者にして総監督の安彦良和さん、シャア・アズナブルの池田秀一さん、キャスバル役の田中真弓さんとアルテイシア役の潘めぐみさんが登壇された。
25年ぶりにアニメ作品に関わり、デジタル化の波を感じつつも本作が「一つのスタンダードになればいいな」と未来を語る安彦さん。久しぶりにシャアと再会した想いと「アフレコは15分で終わっちゃいました」とぶっちゃけるお茶目な池田さんに、母・潘恵子さん(ララァ・スン役)が参加したガンダムに関われて足の震えが止まらないという潘めぐみさん、そして歴史あるガンダムに初めて関わる実感を込めた田中さん。

この中でも、安彦さんと田中さんは昔からのご縁があって、キャスバル役も安彦さんが「ゴリ押し」されたのに、田中さんはあえてオーディションを受けて正々堂々と選ばれたとか。それもこれも、あるアニメ作品に遡る。
スタッフのおかげで「あ。満足だ」と思えるものができたという安彦さんの言葉を受けて、「『巨神ゴーグ』は満足してもらえなかったのかな……」と寂しそうにいう田中さん。お二人は31年前に放映されたロボットアニメ『巨神ゴーグ』の原作・監督と主演という間柄だったのだ。あの作品を大切に思ってくれていて、ゴーグファンの一人として嬉し涙が出ました!
(多根清史)
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