本国アメリカで社会的大ヒットとなったクリント・イーストウッド監督最新作「アメリカン・スナイパー」が、日本でも2月21日に公開され、土日2日間で興収3億3200万円を突破。邦画と洋画を合わせた今年最高のオープニングという大ヒットスタートを切った。

賛否両論の映画「アメリカン・スナイパー」、大ヒットの裏側には女性の支持? 
主人公クリス・カイルを演じた、ブラッドリー・クーパー。役作りで18キロ増量。リアルな演技でオスカー主演男優賞にノミネート。(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

本作は、イラク戦争に4度にわたって遠征、アメリカ軍史上最多160人以上を射殺した伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生を描いた物語。本国ではヒーローとして称えられるも、一方イラクの反政府武装勢力からは「ラマディの悪魔」として18万ドルの懸賞金をかけられ、戦争に行く度に彼の心は蝕まれてゆく。

記録的ヒットを飛ばす「アメリカン・スナイパー」、その理由は


劇中では、迫力ある戦闘シーンばかりではない。任務を終えて、ひとりの夫・父親として愛する妻と子供の元へ戻ってきても、クリスの心は戦地に残されたまま。どこか虚ろで家族と寄り添うことができない、そんな“ヒーローではない”ひとりの人間としての苦悩や葛藤も克明に描かれている。

アメリカでは3月4日時点で3億3100万ドル(!)という驚異の興行成績を記録、クリント・イーストウッド監督史上最大のヒット作となった。また、これまで17年間破られなかった戦争映画ナンバーワン作「プライベート・ライアン」をも抜き、次々と新記録を打ち立てているのである。


こんな大ヒットの理由には、「これまで戦争映画を見に映画館に足を運びに来たことのない女性客が多くつめかけている」のもひとつだと、配給元のワーナー・ブラザース映画は分析する。
本作は、これまでの戦争映画とはひと味違って、戦地にいる夫を案じながらも待つことしか出来ない妻タヤの葛藤、そして戦争に翻弄される夫婦生活についても、深く掘り下げている。女性は妻タヤに感情移入する方も多く、“戦争映画”というよりは、ひとつのヒューマンドラマとして受け入れられているようだ。
賛否両論の映画「アメリカン・スナイパー」、大ヒットの裏側には女性の支持? 
妻タヤを演じたのは、モデルやデザイナーとしても活躍するシエナ・ミラー。(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

その一方、アメリカでは、イラクから帰還した兵士達のPTSD(心的外傷後ストレス障害)がかねてから社会問題になっており、クリス・カイルの妻と同じような苦しみを味わった女性や家族も大勢いるのである。そういった事から考えると、ヒューマンドラマというよりは、もっとリアルな現実として受け止めた方も多いのかも知れない。

大ヒットの裏には批判的な声も?


また、本国アメリカでは賛否両論分かれているという報道も。
クリス・カイルの愛国心をどう捉えるかによって、観る者の抱く感情も変わってくるようだ。
日本では、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんが、「私たちにとって、決して遠い国の話ではなくなった“今”だからこそ観て欲しい。必見」と公式サイトにコメントを寄せる他、数々の著名人が絶賛コメントを寄せている。
また既にご覧になった方からは、「現実に起こっている戦争が元になっているので、一層身につまされる臨場感があった」「最後まで緊張しっぱなし」なと、作品の衝撃性についてのコメントも多く上がっている。ある女性は「エンドクレジットで涙が溢れ出し、暫く立てなかったのは久しぶり」とも述べていた。もちろん射殺を繰り返す主人公に共感できない方もおり、「彼の生き方はよくわからないけれど、戦争は何も生み出さないことだけはよく分かった」と、感想は様々。


日本では、その後も堅調にヒットが続いており、最終的に20億円を超える可能性も見えてきたという。本国アメリカ同様、これまでの戦争映画に比べ女性客の比率も多い本作、エンドクレジットは途中から音楽は流れない。これは、今まで映画音楽に強いこだわりを持ち続けたクリント・イーストウッド監督による演出意図。沈黙の中、流れるエンドクレジットを見ながら、自身の心にどんな感情が湧き上がってくるのか。会場はどんな空気で包まれるのか、ぜひ映画館で体感して頂きたい。
(mic)
「アメリカン・スナイパー」は現在公開中