■最近流行の調理法は、じつは真空調理のバリエーション
ポリ袋、ヨーグルトメーカー、炊飯器…擬似低温調理はもう古い。アメリカ発家庭用低温調理器具が熱い
真空低温調理されたラム肉。美しいまでのピンク色が家庭で味わえる!

ここ数年、ネットを中心に話題のポリ袋調理にヨーグルトメーカー調理、そして定番になった炊飯器での調理。セットして数時間置くだけでほろほろの角煮や肉料理を堪能できるとあって、ものぐさから料理マニアまで熱い視線を集めてきました。


これらの調理方法はどれも80度以下で煮立てずに密閉するという真空調理の手法を家庭でも簡単にできるようにアレンジしたもの。

たしかにどの方法も手軽ですが、記載されているレシピのとおりやっても熱が通り過ぎていたり逆に生っぽすぎたりと、調理するときの気温や使用する機材の環境で出来上がりにおおきなムラがあるのはチャレンジした人ならご存知のはず。

あ、例外的にヨーグルトメーカーは温度管理はかなり優秀ですが、容量の問題であまり大量には作れません。

これらの問題は、真空調理のエッセンスを真似るためにアレンジしたことでどうしても出てくる部分です。

■第四の調理法・真空調理とは

真空調理、もしくは真空低温調理(cuisson sous-vide)とは、1970年代にフランスで開発された調理法で、焼く、蒸す、煮るにつぐ第四の調理法と言われています。

食材を調理前に調味料とともにパウチして、厳密な温度管理の出来る機器で時間と温度を設定し、最適の温度で芯まで一定の加熱を行う手法です。


真空パック内で調理と調味が完結し、すべて一定の品質で作成できるため、現在では高級料理店の調理法としてだけではなく、レトルトパウチの加熱調理や、大規模レストランのセントラルキッチンでもよく使われています。
一時期ネットで話題になったコンビニのサラダチキンもおそらく真空低温調理を採用しているんじゃないでしょうか?

この真空調理のキモは、やっぱり温度。肉などのタンパク質は、だいたい58〜60度でかたまり、68度から分水作用によって固くなるので、食材の芯温をこれらの温度以下で熱を通すことで安定してピンク色のミディアムレアを堪能できるということです。

また、食材をパウチすることで空気を抜き、熱伝導率を高めむらなく加熱できるとともに、浸透圧で調味液の浸透も促進する効果があります。

しかし、これまでは温度管理が厳密な調理機器が業務用の大規模なものしかなく非常に高価で一般家庭には導入しずらく、代わりにポリ袋調理や炊飯器の保温機能をつかった調理法が考案されブームになったわけです。

■なぜかアメリカのオタクがステーキ持って大歓喜! 
ポリ袋、ヨーグルトメーカー、炊飯器…擬似低温調理はもう古い。アメリカ発家庭用低温調理器具が熱い
これが個人向け真空低温調理器ANOVA。鍋や水槽に取り付けて利用します

導入できれば手軽に高品質な調理がだれでもできる……ただし超高価。
という高嶺の花だった真空低温調理ですが、ここ数年アメリカを中心に風向きがかわってきました。ついに個人向けの機器ができたのですっ。

その個人向け真空低温調理のムーブメントを作ったのは、アメリカの雑誌“make”を中心とした技術系オタクたち。筆者がそれを発見したのは、Youtubeでのこと。普段、肉なんか食べてるの? といいたくなるような細身のオタクたちが水槽から肉を取り出して口に運び、「Oh……God……」となぜか神に祈りだすという奇怪な動画が増えていることに気づいたからです。

「こいつらは何を祈ってるんだ?」と思い調査したところ前述のような低音真空調理が行える器具が個人向けで販売開始され、「ANOVA」なら179ドルで入手できると知り個人輸入(輸送費別)してみました。


取り寄せたANOVAは、これが調理器具? と言いたくなる円筒形。女性の髪を整えるコテを大きくしたようなルックスです。これを大きめの鍋や水槽に取り付けて、水を張り温度と時間を設定して使用します。

アメリカ規格の120Vなので、細かいことを気にしなければ日本でも使え、コンロなどを使わないので火の心配もなし。他の調理をしながらほっておけば勝手に最適の温度で調理してくれるという寸法。温度設定は0.01度単位で設定できるというスペックは正直やり過ぎかもと思えます。


最新鋭機だとiPhoneアプリで食材を選べば最適の時間と温度を自動的に設定もしてくれるそうです。なんて便利なんだ……。

で、さっそく使用して作成した豚肉の調理結果結果がこちら。
ポリ袋、ヨーグルトメーカー、炊飯器…擬似低温調理はもう古い。アメリカ発家庭用低温調理器具が熱い
自宅でこんなに美しいポークの断面図が見られるなんて……

ポリ袋、ヨーグルトメーカー、炊飯器…擬似低温調理はもう古い。アメリカ発家庭用低温調理器具が熱い
肉のスミからスミまでミディアムレアという威容

肉の調理の設定温度は58度〜62度程度。調理後にフライパンで表面に焼き色をつければ完成です。それだけで厚みが15cm以上の肉塊でも、薄めのステーキでも、ガッツリ味をつけても火の通りはカンペキに仕上がります。


家飲みなどでは、業務用スーパーでデカイ肉塊を購入して塩コショウのあとジップロックに入れて時間を設定するだけ。あとはサラダなどを用意するだけでビビるほど豪華なパーティ仕様に。豚・牛・ラム・鶏肉と4種類調理してもジップロックの袋が増えるだけというのもスゴいポイント。設定温度が同じなら、何品増やしても一個のANOVAでこなせてしまう。

肝心の味ですが、これも“素晴らしい”のヒトコト。家庭のオーブンだとムラがでやすいローストビーフでもローストポークもカンペキな温度で、しかも焼くのに比べて肉の収縮が少なく、柔らかくジューシーに仕上がります。


とくに驚愕したのが鶏むね肉と、サーモンなどの魚。温度が少しでも上がるとパサパサになりやすい鶏むね肉がしっとりと仕上がり、お箸だけでも繊維にそってほぐれるくらいに。
2キロ700円程度の業務用の鶏むね肉を一気に調理して小分け冷凍すれば、冷たいまま食べても美味しいしっとりとしたサラダチキンが両手一杯できあがります。

サーモンなどの魚は設定温度を40度程度で調理すれば、火が通っているのにお刺身のような何かとにかく美味しいプリンのようなものに仕上がります。サーモンの筋にそっとお箸を添えて持ち上げれば、そのまま筋でわかれて持ち上がられるんですよ。ワサビ醤油でそれを食べたとき、筆者もアメリカのオタクのように「God……」と神に祈りました。

■野菜や和食にも使える! まだまだ広がる真空低温調理

また、低音真空調理のANOVAなら、他の代替手法では調理しにくい野菜なども調理できます。

たとえば、炊合せ。家庭ではさまざまな野菜を一度に煮てしまいますが。料亭では野菜を別々の味付けで煮て、お椀で合わせることでそれぞれの野菜の味が独立して楽しめる本格的な味にしています。

これも、切った野菜をそれぞれ別のジップロックに入れて薄めに仕上げた調味液をイン。ANOVAの設定を84度あたりにして2時間も加熱すれば実現できます。鍋もANOVAも一つきりで5品でも6品でも一気に野菜の煮物が完成するんです。あとはこれを綺麗に盛り付ければ、料亭も驚きの炊合せのできあがり。

野菜と肉を同時に調理するために筆者は現在二本目のANOVAを購入するか真剣に検討しています……。

現在、個人で手の届く真空低温調理機器はANOVAをはじめSous Vide Supremeなど数品が発売されており、各社ホームページからの個人輸入や、米amazonからスグに購入することができます。

価格は大体170ドル〜250ドル。それに送料が30ドル程度で、だいたい日本円で2万円後半から入手可能。円高になってきた今少し高めに感じますが、コンロやオーブンを購入することに比べたらずいぶん割安だし、スペースも取りません。使わない時は端っこにしまっておけばいいだけだし。筆者は、一年半前から自宅のオーブンよりもANOVAをメインに使っていますから、場所と価格のコストパフォーマンスの良さは保証します。元は取れる!

構造はサーモスタットと電熱機の組み合わせなので、メーカーさん、ぜひ
日本向けに真空低温調理機、販売してくれないですかね……?
(久保内信行)