食品から日用品、果ては最先端のプリクラ機まで、私たちの“日常”に属する物事のディープな側面にスポットを当てるバラエティー番組『マツコの知らない世界』(TBS系列)。
番組の基本構成は、ある分野のマニアが、マツコ・デラックスに「こんな世界があるんですよ、すごいでしょ」とプレゼンする、というシンプルなもの。例えば食品などであれば、最初は私たちが普段スーパーなどでよく目にする「定番」を紹介し、そこから徐々にレア/高級な方面にシフトしていく。
まず、この流れがいい。マニアがプレゼンするのだから、最初からコアなものを出してきてもいいはずなのに、あえて視聴者の多くが親しみを持っているであろう“おなじみの商品”から入っていく。茹でガエル現象ではないが、これは最後まで興味を持続させるためのテクニックである。しかも、最初に王道/ベタから入ることで、後々登場するマニアックな品のスゴさも際立つという仕組みだ。
そして、特筆すべきは、やはりマツコ・デラックスの存在だろう。プレゼンする側は、マツコを唸らせることをその場での最大の目標とする。さまざまなオススメ品を繰り出し、「おいしい!」「すごい!」といった感嘆の言葉を引き出そうとする。
しかし、マツコは手放しでは褒めない。
そういえば、『マツコの知らない世界』が人気を得ていく一方で、急速に減少していったものがある。ランキング形式の番組である。近年のその代表格は、やはり「お試しかっ!」(テレビ朝日系列)ということになるだろうか。
「お試しかっ!」は、コンビニやファミレスなどの人気メニュー上位10品を予想し、完食するまで帰ることのできない「帰れま10」シリーズで人気を博したバラエティー番組である。そして、この人気にあやかろうと、同じような形式の番組やコーナーが乱立。一時は、テレビをつければ、必ずこうした番組が目に入ってきたものだ。
08年4月にスタートした同番組は、15年1月に終了した。
コーナーが長期化したこと、同種の番組やコーナーが増えたことで、ランキング形式による番組作りは飽和した。「お試しかっ!」が終わった要因はそれだけではないかもしれないが、少なくとも一因ではあるだろう。また、同局の「お願い!ランキング」が13年から2部構成になり、終了時間が深夜2時台と遅くなったことや(それまでは24:20〜25:15の通し番組だった)、ランキング番組の老舗「ランク王国」(TBS系列、95年放送開始)が、深夜1時台だった放送開始時間を、13年から深夜2時台にしたことも象徴的である。
『マツコの知らない世界』が、ランキング番組に取って代わった。などと言い切るほど、熱心にこの分野をウォッチしてきたわけではないのだが、しかし、何かを紹介する際にひじょうに便利な物差である「ランキング形式」がやや影を潜め、1人のマニアが、1人の視聴者を代表する人間にプレゼンをする、という番組が人気を博しているという事実はちょっと面白い。考えてみれば、とにかく「個人」というスタンスを徹底しているのがこの番組の特徴である。そのこだわりは、15年3月10日放送の「ポテトチップスの世界」に強く表れていた。
タイトル通り、さまざまなポテトチップスが紹介されたこの回。プレゼンを担当した人物の肩書きは「お菓子勉強家」だった。
さて、一時ランキング形式の番組が急増したように、今後『マツコの知らない世界』のような番組が増えるのかというと、果たしてどうだろうか。「ランキング(いち)マニアのプレゼン(パーソン)」と視点が変わったのと同様に、この番組はマツコという個人への依存度が高い。単純に頭をすげ替えて新味を出したとしても、同じような面白さは望めないだろう。つまり、番組のタイトルに「マツコの」とあるように、マツコありきの番組であって、仕組みだけ他所に持っていって簡単に再生産、というわけにはなかなかいかなさそうである。
(辻本力)