朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第5週「1946〜1948」

第24回〈12月2日(木)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』演出・橋爪紳一朗氏いわく、第5週は「安子のシングルマザー奮闘記」
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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稔とるい

第5週の演出担当の橋爪紳一朗さんは第5週を「安子のシングルマザー奮闘記』と語る。

「3週まではある種オーソドックスなラブストーリーでしたが、4週でこれまで積み上げてきたものを壊し、今まで10あったものを5にしたところから新たに安子編の後半に突入しようと考えました」

奮闘には苦あれば楽ありだが、24回では報われることが描かれている。

「おいしゅうなれ おいしゅうなれ  おいしゅうなれ」

いよいよ小豆でおはぎを作るようになった安子(上白石萌音)
るい(中野翆咲)が良い香りで目覚めるようになった。安子の少女時代と同じである。そして菓子司「たちばな」がささやかながら復活し、るいもお手伝いする。

どこかから聞こえてくるラジオのニュース。7年ぶりに甲子園が復活するとの報せに、安子は勇(村上虹郎)を思い出す。勇は野球を取り戻すことができただろうか。

安子は勇の自己犠牲によって娘とふたり和菓子屋をやっていられるのだ。さらに安子は儲けを倹約してラジオを買うこともできた。物置を改装した自宅にラジオを置いて、夕方6時30分になるとるいとふたりで「カムカム英語」を訊く。主題曲を歌いながら。

娘、お菓子、ラジオと英語、彼女の愛するものをその手に掴み取っている安子。だが安子が本当に欲しかったものがない。
それは――稔(松村北斗)のいる世界である。

『カムカム英語』で「日本人のありふれた日常」が語られるのを聞きながら、その情景に稔とるいの姿を重ねて想像する安子。ラジオ体操のアニメ絵も稔とるいに見えてくる。

『カムカム英語』を筆者は聞いたことはないが、戦後、ありふれた日本人の日常を英語で語ることは、生き直すことだったのかなと感じる。失われた日常を取り戻すこと、かつ、日本と戦っていたアメリカの言葉でそれを語り直すこと。それによってかけがえのないものを改めて自覚すると同時に、アメリカと共生していく新しい日常がはじまる。

ラジオを聞きながらうつむく安子に「お母さん、どないしたん。哀しいの?」とるいが訊くが安子はるいを抱きしめる。そして一緒に『カムカムエヴリバディ』を歌う。本当に大事なものはもうないけれど、残されたものを大切にして生きていく安子。

よもぎ団子

安子のやってきたことが報われていく。おはぎの評判を聞きつけて、住吉の岡野商店の人がおはぎをおろしてほしいと訪ねて来た。はじめての大口の注文。
はりきって歩いて届けに行ったら、すごく遠くて大変なことに。でも約束の時間に間に合わなくて契約破棄みたいな哀しい話にははならなくてホッとした。

この回は冒頭に百合、途中で野の花と、花がやさしく安子とるいを彩っている。

大八車を借りたのか購入したかして、配達に励む安子。稔に教わった自転車が役立った。道端でよもぎをみつけ、よもぎ団子にてんぷら。ささやかな幸せ。よもぎの天ぷら、食べたい。

小椋のおばさん、くま(若井みどり)も安子のおはぎが大好きで、安子は毎月の家賃をはらうときにいつもおはぎを持参していた。るいのことを「お父さんにそっくりやなあ」と目を細める。

父のことを知らないるいに、稔のことを語って聞かせる安子。「るいの名前に夢を託したんじゃ」と稔の言っていたことをるいに語って聞かせる。
「ひなたの道を歩いてほしい」。このまま、ひなたの道を、美しい自然に囲まれて生きていけるかと思ったら、そこに現れたのは――。



連続テレビ童話

『おはよう日本 関東版』で高瀬アナが、城田優の「ナレーションのやさしい語り口、わたしもそうなりたいと思いました」と言っていた。

優しく語りかけるナレーションはまるで子供に童話や絵本を読み聞かせているように聴こえる。『カムカム』の進行が早くてもあまり気にならないのは、この話がとんとん進んでいく感じが童話や絵本のようだからだろう。子供の本は大人の本のように、くどくど細かい描写はない。昔話なんて理屈にも囚われないことも多い。ページも少ないし、どんどん進む。それでもべつに気にならないし、物語の核さえしっかり描かれていれば、心を打つのである。『カムカム』にはそういうしっかりした核と童話的なムードがある。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』演出・橋爪紳一朗氏いわく、第5週は「安子のシングルマザー奮闘記」
写真提供/NHK

朝ドラは新聞小説を意識して「連続テレビ小説」としてはじまったため、もともとは小説の地の文のように淡々とした文語調のナレーションが多く、アナウンサーや名優が担当するナレーションはとくにそういう印象が強かった。『カムカム』はラジオの語りが本編であるのでラジオ調だとかぶるだろうから、それとは違うやさしい語り口を探ったら、童話調になったのかなと推測する。

この回は、童話的に言ったら、亡くなった祖父や父の「おいしゅうなれ」と稔の「ひなたの道」が安子のなかに溶けてひとつになる話である。

(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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