朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第5週「1946〜1948」

第25回〈12月3日(金)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』安子が事故に… 演出・橋爪紳一朗氏語る撮影時の上白石萌音、その凄さ
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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今週の上白石萌音さん

第5週の演出担当の橋爪紳一朗さんいわく“安子のシングルマザー奮闘記”。その安子の奮闘は『おしん』の田中裕子を思うほどの重厚さである。第25回、事故に遭ったときの表情。
これを俯瞰で撮ったところも鮮烈だった。橋爪さんに撮影したときの話を聞いた。

「あれはカメラを回す機能がついたクレーンを使用して撮りました。上白石さんが事故直後で心ここにあらずというような芝居をされたので、カメラを回すことで、芝居とカメラワークをリンクさせました。とくに細かいことを事前に話し合ったわけではなく、リハーサルしたときに、ああいう表現をされて、いやもう、巧いなあと思うばかりでした。しかも、上白石さんは直前まで雑談などをしていますが、本番でぱっとスイッチを切り替えるところも驚かされます」

遡って、第21回の冒頭の、写真立てを磨いていた布を突然投げ捨てる場面は台本にあったものを上白石さんが的確に表現した。


「助走を経て溜めたものが一気に爆発という場面の趣旨を軽くリハしたら、ああいうふうに彼女がやってくれました。個人的な好みもありますが、芝居巧者の上白石さんは表情を自在に作ることができますが、背中でも語れるだけの才能ももっています。だからこそ、哀しいときにいかにも哀しい顔するのではなく、思いと表情が多少ずれているほうが一層心情が表現できると思い、あえて顔を見せずに撮ったりもしています。第5週のみならず第3週にもそういうところがありました」

想像を超えた表現によって安子の心情が一層深まっている。
第6週でも上白石萌音の驚異の才能が閃くシーンが待っている。

安子、再び、岡山へ

貧しくも楽しかった大阪の生活もあっという間。千吉(段田安則)が迎えに来た。
「おじいちゃん、おはぎ食べますか」と台に乗っておはぎをとって千吉に渡するい(中野翠咲)の愛くるしさといったらない。

千吉は孫に目を細め、おはぎに舌鼓を打つ。そして、「稔の妻として堂々と雉真の家にいればいい」と安子を説き伏せようとする。稔(松村北斗)が死んで孫もいなくなって……とショックの連続に臥せってしまった美都里(YOU)はるいさえ戻ってくれば気が済むと言うのだ。

その申し出を安子はるいとふたりで生きていくと拒む。「るいにそれにふさわしい教育を受けさせてやりてえ」という言葉を残して去る千吉。
それは勉強好きの安子には痛い言葉だったことであろう。千吉は、るいが安子の子であると同時に稔の子でもあることを強調する。とにかく家を守ることが大事なのだ。男の子だったらもっとすごい圧をかけてきただろうと思うと、女の子で良かった気がする。

千吉の言葉に奮起して、おなじみのメランコリックな劇伴が流れる中、安子はますます働く。忙しくなったのはいいが、ラジオを聴く余裕もなくなってしまう。
できればふたり以上でレッスンすることが上達の秘訣とラジオで言っている。それはつまり家族の団らんの時間の提案でもある。忙しい1日のなかのほんの15分を家族で同じ番組を聞いて過ごすことの大切さ。これぞお茶の間ライフ。安子は15分の時間をとることができず、るいはひとりでラジオを聴くことになる。家族の分断。


ラジオは家族で楽しむのもいいし、ひとりで楽しむのもいい。本来ラジオはなにか作業しながら聴けるもの。しっかり聴いて学ぶことは無理でも音楽やちょっとしたしゃべりすら気晴らしにできないほど今の安子は心身ともに追い詰められていた。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』安子が事故に… 演出・橋爪紳一朗氏語る撮影時の上白石萌音、その凄さ
写真提供/NHK

無理がたたって、ある日、リヤカーに乗っておはぎの配達の途中、交通事故に遭ってしまった。前述したが、このときの安子の表情が凄い。空っぽになった感じが迫真だった。
微動だにしない。

そこから、はっと上半身を起こし、ずりずりと重い体を引きずって、るいの元へ。自身もぼろぼろにもかかわらず、火のように泣くるいを抱えて必死で医者に向かう。このへんのがむしゃらな感じが『おしん』を思い出す。田中裕子のようなテクニカルな様式性と生々しい情感を併せ持つヒロインはもういないと思っていたが、上白石萌音がいた。

限界にきて気絶して、気付いたときには、勇(村上虹郎)がいた。安子を岡山から逃した彼もまた岡山に帰ってきたほうがいいと言う。

「お菓子くれえ右腕一本で作れるわ」と意地を張る安子。驚くほど根性が据わっているが、るいの額に一生治らない傷を作ってしまったことを知ると折れるしかない。安子、撤退……。無念。

とぼとぼ帰った雉真家の玄関には美都里が待っていて……。岡山嫁姑戦争が再び勃発?

ちなみに、雉真家の玄関に富士山の絵がドーーンっとあるのだが、この日の朝、山梨県東部・富士五湖を震源とする地震があった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami