朝ドラ「まれ」(NHK月〜土 朝8時〜)の第8話は衝撃回。ぶっきらぼうで、腰に手を当てて牛乳飲む、オトコマエな桶作文(田中裕子)がふたりの男に取り合われた魔性の女だったことが判明しました。

希の移住と入れ違いに引っ越してしまった圭太(山崎賢人/崎、大じゃなくて立のほう)が、再び輪島に戻ってきて、塗師屋であるおじいちゃん・弥太郎(中村敦夫)が登場。彼と元治(田中泯)との確執を希が知ることとなります。
その話を聞いた藍子(常磐貴子)のぽかんと口を空けた表情と、それを受けて「なにか不思議ですか?」と聞く文の流れは、「まれ」見ていてはじめて、くすりとなりました。
まさか、田中裕子が「まれ」に足りないおもしろ成分の鍵を握っていたとは。
では、田中裕子、魔性の女優の歴史を少々。
ヒロインを演じた朝ドラ「おしん」(83年)の伝説級の人気もしかり、80年代後半、スーパースター沢田研二と結婚したことも田中裕子の突出した魅力を感じさせるエピソードです。

ドラマでは、昨今、妙齢な女主人公の母役が多いものの、「Mother」(10年)「Woman」(13年)などで、主人公を凌駕するほどの存在感を発揮し、視聴者を釘付けにしています。彼女が演じると、主人公だとか脇役だとか年齢だとか、決められた役割なんて関係なくなってしまう。カテゴライズできない女優なのです。
例えば、故・高倉健の妻を演じた「あなた」(降旗康男監督、12年)。55年生まれの田中は公開時57歳なので、53歳の役は妥当ではあるのですが、夫と出会ったばかりの37歳くらいの頃もそのまま演じていました。もっとも80歳の高倉自身が60歳くらいの役をやっていたので、年齢の飛距離はまあありなんですが。

これが、舞台となるとさらにすごいのです。「冬物語」(蜷川幸雄演出、09年)では、いくら遠目で見る舞台といったって16歳の可憐なお姫様役を演じたことは忘れられません。
このとき田中は、お姫様の母である王妃との2役で、死んだと思っていた王妃が登場するシーンでは、神的な佇まいを見せました。映像だと、土の匂いのする生活感ある女性をリアルに演じている田中が、舞台だと妖精か女神かと思うばかりの透明な光を放つのです。それは、村上春樹の小説の映画化「海辺のカフカ」(蜷川幸雄演出、12年)の初演でも発揮され、謎多き佐伯さんを、母のように、ファムファタールのように、宇宙のような懐の深さで演じていました(再演以降は宮沢りえにバトンタッチしています)。柳楽優弥演じるカフカと結ばれるシーンも実に神々しかったのです。

その一方で、芥川賞受賞小説の映画化「共喰い」(青山真治監督、13年)のお母さん役の生活臭と凄まじい情念にも圧倒されました。
目鼻立ちがこじんまりした童顔が年齢不詳に見えるメリットでもあり、ともすれば地味にも見えるデメリットであるでしょうが、そんなことやすやすと乗り越える何か強力なものが田中裕子にはあります。それこそを魔性と呼ぶのかもしれません。
8話の最後、一子(清水富美加)が金沢でスカウトされ東京に出ようと燃えていましたが、一流になろうと思ったら田中裕子を見習ってほしいものですね。(木俣冬)

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