女子高生が恋をした。
相手はバイト先のファミレスの中年店長。

マンガ『恋は雨上がりのように』は、少女の片思いの物語です。

ヒロインの橘あきらは、男女からモテモテの美人の女子高生。
基本無口で感情を表に出さない。
ただし言うことははっきり言う。激情家で怒鳴ることもある。
かつて陸上をやっていたものの、脚を怪我して、今は走れない。
その時間ファミレスでバイトをしている。
店長が、好き。

一方、店長の近藤正己。45歳。店長歴6年。昇進なし。

あまり気が強くなく、お客さんにはへこへこ頭を下げてばかり。
働いている子たちにも、ビシッと注意ができない。ストレスから頭に十円ハゲがある。
店長として衣装は整えている。だけどチャックがあいている、などどこか抜けている。
くしゃみが大きく、ちょっと加齢臭がするらしい。
たまに、さりげなく気を使ってくれる。

このマンガはあきらと店長、二人の視点が交互に入れ替ります。

あきら視点だと、店長は「かっこいい」。
へこへこしているのは「優しさ」、机に座っているとき見える十円ハゲは、努力の証。
不器用なしゃべり方は、色々考えてくれているから。
ちょっとしたことに気づいて話しかけてくれるのは、仕事だとしてもうれしい。

おっさんだから「ライバルがいない」のも美味しい。
大好き。付き合いたい。
少しでも前に進みたい。

一方店長の視点。
いまいちうだつがあがらず、バツイチな中年男性。昇進出来る見込みなし。
フロアの他の子に「クサイ」と言われて心が折れそうになることもある。
働いているあきらからは、ゴミを見るような目で見られる(実際は夢中になっている熱視線です)。
まわりにいる若い子は、みんな夢と希望にあふれている。
あきらの明るさと若さを見ていると、胸が苦しい。
でも自分には、何もない。

「僕はカラッポの中年だ」

なんせ相手は17歳。自分の子供のようなもんです。告白されても困ってしまう。
「返事をすることはできないよ、俺、45だよ!? 周りがどう思うか……」
「周りの人がどう思うかなんて関係ないですっ!」
「親子ほども違う……」
「でも親子じゃない!」
若いあきらの気持ちは、ちゃんと伝わっているよ。
周りを気にするのも、あきらのことを心配するのも、おっさんなら当たり前なんだよ。

若いあきらといると、自分が若くないことにいたたまれなくなってしまう。
ついつい自虐してしまう。何も出来ないおじさんだから、と思考がマイナスになってしまう。
でもあきらは恐れることなく、店長に向かって思いをぶつけてくる。

これは、おっさんが逃げずに、少女ときちんと向かい合うための物語。
若くないことや、夢を諦めたことに傷つくのは仕方ない。
胸が締め付けられる感覚を克服していく、中年の解放の物語だ。


2巻ラストで、あきらがたまたま店長がいないとき、家にあがるシーンがあります。
あきらが見たのは、店長の部屋の文学全集と、書き散らかした原稿用紙。

「僕はカラッポの中年だ」
そんなことないじゃん!
45歳。青春真っ盛り。いいんだよそれで!

余談ですが、店長の部屋の本棚に川端康成があったのは、ちょっとニヤリとしました。


眉月じゅん
『恋は雨上がりのように』1
『恋は雨上がりのように』2

(たまごまご)
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