■藤巻亮太 明日の歌旅 2013
2013.10.23(WED) at 渋谷区文化総合センター 大和田 さくらホール
(※画像8点)

藤巻亮太の初弾き語りツアー【明日の歌旅2013】の東京公演が、10月23日、渋谷区文化総合センター 大和田 さくらホールにて開催された。じゅうたんが敷かれ、ギター3本とシンプルな椅子がセッティングされただけのステージ。
しーんと静まり返る中、藤巻は足音をコツコツと鳴らしながら登場。この段階から早くも引き込まれ、会場の意識もグッとステージに集中したのがわかる。まず1曲目はアコースティックギターで和音を奏でつつ、小さなランプ一つだけの薄暗がりの中、新曲「春の嵐」を披露。色とりどりのライティングで魅せた「四季追い歌」、ギターを持ち替え切迫感あるカッティングとパワフルな歌でムードを一転した「ハロー流星群」、と続けた。

ツアーを振り返り、「久しぶりにツアーに出て、歌える喜び、皆に会える喜びを噛み締めながら1本1本演奏し、そして歌ってきました」と感慨深そうに語る藤巻。新しい自分を見つける旅に出たという知人に贈る曲「明日の歌」をリラックスした様子で歌った後、バイオリニスト岡村美央がゲストとして登場し、3曲を共演。
1曲目の「かすみ草」は、バイオリンの不穏な響きと複雑な変拍子が心を揺さぶる不思議な曲で、3曲目の「8分前の僕ら」は、人と共に生きることを綴ったストレートな歌詞が耳に飛び込んで来た。全編を通して新曲が多く、こちらも何の予備知識もなく歌詞に耳を澄まし、歌と音に向き合ったのだが、藤巻のソングライターとしての幅と深さがいっそう増しているようだ。

続くMCでは、この夏、かねてから親交の深いアルピニスト野口健とともに3週間アフリカへ行って来た、と報告。タンザニアでは現地の人々の狩りに同行し、弓矢で仕留めたばかりの動物を食す、という体験もしたという。ルワンダの内戦にも想いを巡らせた藤巻は、“人が生きるとは、複雑だな”との想いを深め、その複雑さを音楽でひも解いていけたら、と考えているという。続いて披露したのは、ソロ活動の起点であり象徴でもある「オオカミ青年」。
魂の叫びのようなこの曲を、赤いライトに射られながら、渾身の力で表現してみせた。

レミオロメン時代からファンにもお馴染みのキーボーディスト皆川真人が招き入れられると、会場から大きな歓声が沸いた。「twilight」ではファルセットのフェイクを加えて伸びやかな歌声を聴かせ、ギターを持たずに歌に専念したドラマティックなバラード「another story」、言葉にならない感情が歌と音からひしひしと感じられた「月食」、と3曲を共演。ボーカリストとしての進化を実感するシークエンスだった。そして、新曲群の中でも特に強調したいのが、この後披露した「死にたいくらい」に見る藤巻の覚醒ぶりである。歌詞の面では、例えば“乳房”など、以前ならば選ばなかったであろう言葉を大胆に用い、より“生”の深層に迫る表現に挑戦。
鬼気迫るほど切実な様子で歌い、心に強く揺さぶりを掛けて来るのだ。歌い終えてのMCで、藤巻は、この歌詞はアフリカ滞在の最後の数日間に降りて来たと明かした。続く「フラミンゴ」も、空を埋め尽くすような大群をイメージしてアフリカで歌詞を書いたのだとか(実際には1羽も見られなかったそうだが)。アフリカの旅は、藤巻に豊かなインスピレーションの源を与えたようだ。

終盤はゲストの二人を再び招き入れ、3者共演。結婚を控えた知人のリクエストで作ったというウエディングソング「愛という字の心の中に」と、「“生きるって複雑だ”というテーマに辿り着く最初の一歩」(藤巻)として生まれた楽曲「命みたいな日」を披露し、本編を終えた。


アンコールにも3人で登場。「さくらホールということで…」(藤巻)との前振りで既に客席からは歓声が上がり、その期待通りレミオロメンの「Sakura」が奏でられると大きな手拍子が鳴り響き、リズムに合わせて多くの観客が頭上で手を揺らしていた。その様子をステージ側から見て「皆にバイバイされてる気持ちでした(笑)」と笑わせつつ、18、19歳で初めて曲を作った時のことを振り返り、「モヤモヤした未来への不安や劣等感が、1曲分だけ減った。稲妻に打たれたような体験だった」と語り始める藤巻。「音楽を大好きになり、幼なじみとバンドを組み、10年でソロになって…先のことはわからない。この瞬間瞬間を大切にして、その道の上で出逢った人を大事にしたい。
今日はライヴに来てくれてありがとうございました」と挨拶し、「この道の上で逢った皆に」との紹介から、「名もなき道」を披露した。未来の明るい光を信じようとするような、伸びやかなメロディーと歌唱が耳に残る新曲で、徐々に強さを増す眩しい照明とともに、込められたメッセージが身体に、心に沁み込んで来た。終演かと思いきや、一人で再び姿を現した藤巻は、レミオロメンの「太陽の下」をギターで弾き語りし、笑顔で大きく手を振ってステージを去って行った。

多数の新曲が披露され、最新の藤巻亮太を直に感じ取ることができたこの日のステージ。表現はよりリアルで自由になり、人間の本質に迫るものとなっていた。歌詞やMCから推し図ると、自分一人の内面を掘り下げると同時に、他者との結びつきを求める気持ちも強まっているように感じられた。
ソロアーティストとして、藤巻は次なる一歩を既に踏み出している。落ち着いたムードの中にもそんな確信と期待を抱かせる、力強いライヴだった。
(取材・文/大前多恵)

≪セットリスト≫
1. 春の嵐 *
2. 四季追い歌
3. ハロー流星群
4. 明日の歌 *
5. かすみ草 *
6. 音の花 *
7. 8分前の僕ら *
8. オオカミ青年
9. twilight
10. another story *
11. 月食
12. 死にたいくらい *
13. フラミンゴ *
14. 指先 *
15. 愛という字の心の中に *
16. 命みたいな日 *
<アンコール>
1. Sakura
2. 名もなき道 *
3. 太陽の下
※新曲(*)タイトルは、変更になる可能性がございます。

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