京都の地下鉄に乗っていると、女子高生3人組が楽しそうにしているポスター(イラスト・賀茂川)が目につく。
ライトノベル「京・ガールズデイズ〜太秦萌の九十九戯曲」では、3人のほかに、エキセントリックなお姉サンキャラ・烏丸ミユや東京から転校してきた少女・白川澄が加わって、京都のパワースポット巡りがはじまる。

そんな京都を支えてるのが地下鉄で
下鴨神社、二条城、祇園、太秦の蚕ノ社神社、六角堂・・・といった観光客には人気だが、地元のひとたちはあまり行かない場所(東京でいえば昔東京タワー、いまスカイツリーにまだ行ってないみたいな感じ)を、あえて京都女子に巡らせるために、謎の精霊・都くんが現れ、彼の導きで登場人物たちが不思議な体験をするというファンタジックな物語になっていて、京都に詳しくない読者も、京都に詳しい読者もどちらも楽しめる。とくに京都ビギナーには京都の簡単な地図やクイズなども盛り込んだ親切構成。
精霊は自分たちの世界を「京都のもうひとつの姿だよ」と言う。京都といえば、魑魅魍魎が跋扈するイメージもあって、この世とあの世、ふたつの世界という舞台設定はとりたてて珍しいわけではないが、この小説にはさらにもうひとつの姿が描かれている。
それは、地下鉄だ。
東西を繋ぐ東西線、南北を繋ぐ烏丸線が、京都の街の下で十字に根を張っている。地下鉄好きの萌は「京都は古い街で歴史的な建物が多いから、地上ではあんまり電車を走らせられないし。でも観光都市としては、交通機関もちゃんとしてないと駄目で。で、そんな京都を支えてるのが地下鉄で──」と語る。
萌たちが訪ねるスポットも地下鉄に乗って行ける場所で、ところどころ、萌の地下鉄愛と地下鉄情報が出てきる。「地下鉄に乗るっ」キャンペーンキャラの物語だから地下鉄推しなのは当然で、よくできたPR小説になっている。
そもそも、このライトノベルが誕生したのは、今年の2月、藤田さんが京都国際マンガミュージアム(東西線烏丸御池駅そば)と「地下鉄に乗るっ」コラボ企画を見たことだった。マンガミュージアム経由で交通局と話をし、企画を進めた。小説の書き手に選ばれたのは、京都在住の作家・幹。京ことばや、登場する場所へのリアリティーが託せることが強みだ。
ゆくゆくは世界にまで届けたい
京都交通局の要望も聴きつつ、元の設定は変えないというのを条件に、オリジナルストーリーをつくっている。京都のスポット選びはベタ過ぎずマニアック過ぎずの程よさを探っていて、そこがなかなか難しいところだとか。すでに2作めの準備にも入っていて、ライトノベルのほかコミカライズ、アニメ化して、ゆくゆくは世界にまで届けたいという大きな夢を掲げる。去る9月19、20日に行われた「京まふ(京都国際まんが・アニメフェア)」というイベントでは、アニメCMのイベントやライトノベルのサイン会など大いに盛り上がったそうだ。新キャラ、萌の姉・麗も誕生し、勢いの止まらない京都の地下鉄、このまま国内のみならず、世界的に有名になるか。
(木俣冬)