乱気流に揺られ、ふらふらとプノンペン国際空港に降り立った私。乗り込んだタクシーは夕暮れ時の大渋滞に巻き込まれ、急停車急発進と自由すぎる車線変更を繰り返し、旅の疲労はいきなりピークに。
いつ到着するのかとぐったりしきった頃、薄暗いプノンペンのとあるビルの屋上に、馴染み深い看板が神々しく光っているのが見えた。そう、これこそ「東横INN toyoko-inn.com」のサインであった! カンボジアの人が「東横」を読めるのかどうかはともかく、私にとっては砂漠でオアシスを見つけたような気分だった。
日本・韓国と来て、次はなぜカンボジア? 東横INNプノンペンに泊まってみた
翌朝撮影した「東横INNプノンペン」外観。これだけ見たらどこの国か分からない。

日本でおなじみのビジネスホテルチェーン「東横INN」。リーズナブルで快適な、どの街でも変わりない安定のサービスを提供する一方で、微妙な違いを持つ各店舗の存在がコレクター心をくすぐり、私も国内旅行をするたびに東横INNを探すファンなのだが、我らが東横INNが今年6月、なんとカンボジアの首都・プノンペンに出店したと聞いて驚いた。

同社が既に韓国に6店舗も出店しているのは知っており、私も何度も利用しているのだが、海外進出と言えば普通、韓国・台湾・中国・タイ・シンガポール……など近くて便利そうな国から攻めていくのが定石ではないだろうか。それがいきなりカンボジアである。一体どういうことだ? 東横INNファンの予想の斜め上を行く展開に、それなら受けて立とうと思いプノンペン行きの航空券を買った次第である。
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いざ「東横INNプノンペン」へ。


一見ゴージャス? でも室内はいつもの東横INN!


タクシーを降り、ホテルの入り口に向かうと、何とスタッフがドアを開けてくれた。この高級ホテルっぽいサービスはカンボジア仕様? ロビーは天井が高く奥にはバーカウンターもあり、日本の東横INNにはなさそうな、ちょっと贅沢な空間を演出している。壁に浮世絵が飾られているのも、異国感たっぷり。とはいえ、パソコンコーナーや、いつものガウンが入ったクローゼットもあり、基本はあくまで東横INNのようだ。

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オリエンタルでゴージャスな雰囲気のロビー。バーカウンターは現在準備中とのこと。

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とはいえ壁に貼られているお知らせのデザインは、かなり東横INN的。


まずはフロントでチェックイン。日本人客に特化しているのかと思いきや、カンボジア人スタッフと英語でやりとりすることに(なお、日本語ができるスタッフもいるそう)。
とはいえ既にネットで予約は済んでおり、英語が得意ではない私でもスムーズだ。宿泊者だけが利用できるエレベーターで上階まであがり、予約していたシングルルームへ。

日本と同様にカードキーでドアを開けたその先は、まさに見覚えのある空間! 内装、ベッド、照明、バスルームはもちろん、テーブルまわりの鏡やドライヤー、時計まで、部屋ごと日本から移築したかのような既視感だ。違うのは、最も安価な部屋(デラックスシングル39ドル)を選択したのにも関わらず、結構広いということ(15平方メートル)。

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こちらがデラックスシングル。大きめなのが海外仕様(写真提供・東横INN)。

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室内に置かれていたチラシ。おなじみの内容がクメール語で書かれていることに興奮!


ともかく清掃の行き届いた、日本と変わらない清潔な部屋で、NHKを見ながら、プノンペンにいるということを忘れてどっぷりリラックスしてしまった。日本の東横INNではあまり使用しなかったが、パスワードを自分で設定できる金庫があるのも非常にありがたい。

カンボジア人スタッフがつくる朝食のレベルが高い


その日の夜、現地法人「株式会社東横インカンボジア」の代表取締役の山本さんと、支配人の深瀬さんにお会いし、日本の東横INNとはどこまで同じでどこまで違うのかについて、ファンとしては大変興味深い話をお聞きした。

見た目という部分では、日本とは異なる仕様が所々に。まずは外観。日本の東横INNではスタンダードとなっている、ベージュやブラウンを基調としたアーリーアメリカン調の外観とは異なり、白とグレーを基調とした石っぽいつくりとなっている。

ホールや廊下の壁にはクロスではなく本物のレンガをあしらった。そして客室も含め、床はカーペットではなくコンクリート。これらは現地の気候や建物の建て方を意識しての選択だ。
ファンにはまさにレア物件である。

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廊下の様子。壁はレンガ仕様だ。

サービス面ではまず、しゃぶしゃぶレストランがあることが特徴のひとつ。東横INNでは基本的に夕食の提供を行わないそうだが、周辺に飲食店の少ない名古屋の中部国際空港本館店、品川駅港南口天王洲店、そしてプノンペン店だけは例外。ここでなら貴重な東横インディナーが味わえるというわけだ(有料)。

さらに、決められた範囲内なら車で送ってくれる「無料ドライバーサービス」も運営。夜道に気を付けて損はないプノンペンならではのサービスといえよう。ちなみにホテルの入り口でドアを開けてくれたのはドアマンではなく、この運転手や警備員とのこと。ホテル側から業務として指示したことはないのだが、彼らカンボジア人スタッフは自発的にドアを開けてくれるのだとか。おもしろい。

他にも、東横INN宿泊では欠かせない無料朝食サービスが、カンボジア人スタッフがつくるカンボジア料理というのも、スペシャル感たっぷり(もちろん定番のパンや卵もある)。「たまに登場する、パクチーがたっぷりのったカレーはおいしいですよ」とは深瀬支配人。ものすごい気になる……。


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翌朝、朝食フロアに行ってみたら、鳥スープのおかゆ、鶏肉の塊と大根が入ったスープ、ココナッツの寒天など、日本の東横INNには絶対ない料理がたくさんあり興奮。そしてどれも、お世辞抜きでとても美味しい!

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そしてまた別の朝の朝食。この日はカレー風のスープ(残念ながらパクチー入りではない)が登場。ショウガを刻んでいためた料理は、初めての味だったけどクセになる美味しさ。

ロビーの華やかな印象から一見、現地での高級ホテル的な位置づけを目指しているのかなと思いきや、そういうわけではない。日本であれ海外であれ、どこでも同じサービスと安心感を提供することを大切にする東横INN。ホテルごとに特別すぎるサービスを行いブランドイメージを逸脱しないよう、常に気を払っているとのことだ。そう、ファンとしての東横INNの楽しさもそこにある。かっちり決まった枠内にあるちょっとした違いにぐっとくるのだ。

お次は、さらに予想外なあの国に出店


そして最後に、なぜカンボジアに出店したのかという質問。「皆さまから質問を受けるのですが、特に理由はないというのが本当のところです」と山本さん。何と!

東横INNの運営は、同社が直接土地を買ってホテルを建築するスタイルではなく、東横INNを建てたいという投資家がいて初めて成り立つのだそう(例外も)。既に世界中で営業をかけており、その中で最も早くプノンペンの投資家と話が進み、今回の出店につながった。

なおカンボジアの次は、2017年1月の釜山海雲台II(韓国)に続き、春にはフランクフルト(ドイツ)、マルセイユ(フランス)などのヨーロッパ各地、またアジアではセブ島(フィリピン)とウランバートル(モンゴル)に出店予定があるとか。ヨーロッパの街並みにたたずむ東横イン、リゾート地と遊牧民の地の東横インなんて、こちらも気になる……。

「ターゲットを日本人に絞るのではなく、地元の人に使ってもらってこそ成功だと考えています」と山本さんは話す。
なお東横INNでは、地元の雇用創出・再就職支援のため、支配人を始めスタッフは地元採用を行っているとか。「カンボジア人の上昇志向はすごいですね。若い子でも良いポジションにつけると、皆がんばって英語や日本語を勉強しています」。

またそういう意味では、韓国の店舗は韓国人の利用客が多く、成功していると言えるそう。日本の東横INNが世界の人に受け入れられるなんて、ファンとしては非常に喜ばしいことだ。あらためて韓国店も制覇してみたいという気持ちが沸いてきた。

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ホテル内にいるとすっかり日本気分なのだが、窓の外はプノンペン。近くには昨年登場したばかりのイオンモールも。

その夜、ひとりで最上23階のしゃぶしゃぶレストランに行ってみた。バーとしても利用することができ、私はビールだけを注文したのだが、お値段たった1ドルと、現地価格なのが嬉しい。周囲には現地ビジネスマンとおぼしき日本人が歓談している。

土地開発やビルの建築がどんどん進み、近年は日本人企業家の進出も多いという、変わりゆくプノンペンの夜景を眺めながら、まだカンボジア旅行は始まったばかりなのに「次の旅行はモンゴルの東横INNだな……」と期待を膨らませた。
日本・韓国と来て、次はなぜカンボジア? 東横INNプノンペンに泊まってみた
こうして私の宿泊済み東横INNカードのコレクションに、プノンペン店が加わったのであった。

(清水2000)
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