戦後の日本はGHQに7年間管理された。「日本人の生活水準を、日本が侵略した国々の生活水準よりも高くならないようにしておく」という基本方針があったという。


戦中の暴走を見た相手は、日本に徹底的な「罰」を与え、二度と戦争できない国にしようとしたわけだ。一方、敗戦日本の国民は、「日本暴走を止められなかった人たち」として、着替える服、食べる物がなくても、ノミやシラミや伝染病で苦しくても、大勢が何の助けもなくしばらく放置された。

この数年間の、大量の人々が同時に体験した圧倒的な貧困を書いたのが『戦後の貧民』だ。
一億総貧困社会、改善されない地獄『戦後の貧民』
『戦後の貧民』塩見鮮一郎著/文藝春秋

戦後の貧民


著者は、貧困や差別について様々に書いている塩見鮮一郎だ。7歳の時に終戦を迎え、自身の人生にもその期間が直撃している。

本書では戦後の混乱から闇市の発生、米兵向け「特殊慰安施設」、原爆やシベリア抑留など、多方面で発生した苦難を「貧民」というキーワードで横断しながら書いてみせる。

何年も続いた異常



終戦を機に、兵士や民間人1000万人以上が移動し始めたという。家のない者も多い。がれきやゴミから物を寄せ集め、人々が浮浪している。戦後時間が経っても改善されず、「年単位」でそういう異常な状況が続いた。

一方の占領軍も、自爆攻撃をやったような狂信国家を相手にしている。テロに厳重警戒するなかでマッカーサーが、ペリーの黒船が停泊したのと同じ一に到着した。

さまざまな「貧民」


貧民といっても種類はさまざま。だが共通するのは、「十分な支援を受けず、逆に弾圧を受ける」という部分だ。


住む場所もなく金属などをひろって生活する者は、復興とともに邪魔者扱いされる。公園などの住処は撤去され、捕まれば強制的に施設に入れられる。

生きる手段がなく「特殊慰安施設」で米兵を相手にする女性も、性病蔓延によって都合良く解散させられ、これまた強制的に病院に入れられたりする。傷つき自死した人もいる。

四肢を失うなど、大ケガで帰ってきた兵士や、夫をなくした妻を、戦中の人々は「立派に戦って偉い!」などと褒めていた。だが終戦後は無惨なものだった。軍の関係者を優遇する「恩給」もGHQによって廃止され、「生きるな」と言われるようなものだった。

国のためだと散々煽られた人々。何重にも何重にも、さまざまな媒体・さまざまな方向から教育を刷り込まれ、身を国に捧げた。その結果、ボロボロになった。そうしたら今度は「復興の邪魔もの」扱いである。

本書はそういった経緯や状況、当事者たちの目線を、関連した書物などから随時データを引用しつつ書いている。
当時の悲惨が網羅的に見え、読みやすく、さらに他の本の紹介も豊富に含まれているのも良い。
(香山哲)
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