出版不況が叫ばれ、書店の苦戦が報じられる中、『本屋はおもしろい!!』は日本全国にある個性的な新刊書店と古書店を紹介し、数万部を売るスマッシュヒットを遂げたと聞く。
第2弾の『本屋へ行こう!!』も充実の内容だ。注目の新刊書店の詳しい紹介だけでなく、書店ビジネスの現在を解き明かした特集はビジネス誌並みに掘り下げられており、これから書店をつくりたい人なども必読の内容となっている。
さらに、吉田豪、とみさわ昭仁らの猛者が全国の個性派古書店を紹介する特集など、本好き、書店好きなら読みどころがたっぷり。A4判の大型ムックながら、写真だけでなく文字量、情報量パンパンなのがうれしい。
村上春樹が朗読&トークイベントを行った熊本の小さな書店とは?
口火を切るのは、新宿の紀伊國屋書店が大好きだという女優の多部未華子と青山ブックセンター六本木店が大好きだというラーメンズ片桐仁のインタビュー。ABCが好きだなんて、すごくいかにもな感じ。
Part1は「本屋ファンが選ぶ本当にいい本屋さん」。メディアにしょっちゅう登場する書店ではなく、本好きのライターたちが“本当にいい”と思う書店を紹介している。
「町の本屋さん」は、東京・代々木上原駅前の幸福書房や、日本文学者のドナルド・キーンも来店する東京・駒込のフタバ書店などを紹介。いずれも小さな昔ながらの本屋さんでありながら、充実の品揃えを誇る店ばかりだ。
「個性派書店」に登場する、熊本・熊本市の橙書店は、レトロな細い路地にある。orangeというカフェを経営していた女性がすぐ隣に作った本屋だから「橙書店」。2015年の梅雨の時期には、めったに書店イベントをやらない村上春樹が朗読とトークイベントを行ったという、とろけるようなエピソードを持つ。
「元気なチェーン店」の冒頭を飾るのは、驚異の発信力を誇る岩手・盛岡のさわや書店フェザン店。筆者のデビュー作『名言力』(SB新書)も、さわや書店フェザン店に猛プッシュしていただいて11刷まで到達した。そのあたりの経緯はnote「どうすれば重版するのか?」に詳しく書いたので興味ある方はぜひ。当時の新書担当だった田口さんは店長になっておられた。
「ゼロ年代生まれの小出版社が愛してやまない本屋」では、夏葉社、ミシマ社らの個性的な出版社がフェイバリット書店をレコメンド。熱い読書会を開催する「双子のライオン堂」などの個性的な書店が数多く紹介されている。
京都の名物書店、ガケ書房のオーナー(現在はホホホ座に移転・改名)の山下賢二と、やはり京都の人気書店、恵文社一乗寺店店長だった堀部篤史の対談では、「地域の個人書店」の可能性が語られる。これを読むと、京都へ行ってみたくなる。
「全国の注目新規書店」では、東京・二子玉川の二子玉川蔦屋家電、東京・新宿のSTORY STORYなど、新業態としての書店にスポットを当てる。取材で国立駅へ行ったとき、洒落た書店だなぁと感心した「PAPER WALL nonowa国立店」も紹介。なるほど、オリオン書房の新業態なのね。
ホリエモンが語る書店ビジネス論に注目
Part2は「本屋ビジネス最前線」。
ここでは、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSに出資者として関わる堀江貴文のインタビューに注目。本フェチではないクールな視点で書店ビジネスを解き明かしていく。本は利幅が非常に低く、売上だけで成立するのは難しいが、「コンテンツ力」を持っているため本は人を呼び込むためのツールになるという指摘も。昨今、カフェを併設したり、イベントを頻繁に開催する書店が多いのは、このためだろう。
そのほか、データも豊富に揃えられている。「都道府県別チェーン書店売上ランキング」もおもしろい。住んだことのない地方のチェーン書店って意外と知らなかったりする。
Part3は「本屋の現場から」。名物書店員たちが、自らの棚作りに関する哲学を披露する文字だらけの特集だ。
書店員がつくるフリーペーパー特集というマニアックな特集も楽しい。ほとんどが手書きで、いつの間にかおしゃれになったフリーペーパー界に、まだこんなにミニコミ然としたミニコミたちが残っていたなんて驚き。
かと思うと、物議を醸した元少年A『絶歌』を書店員たちがどのように扱ったかをシリアスにルポした記事も興味深い。
最後のPart4はディープな「偏愛的!! 全国古本屋探訪」。莫大なタレント本コレクションを元に徹底的なインタビューを行う吉田豪と、神保町で特殊古書店マニタ書房を経営するとみさわ昭仁の対談がいきなり濃い。
ブックオフ全店舗制覇を目標にするとみさわは、全国の古本屋をめぐっていても1店舗にかける時間はわずか20分ほど。速読技術の一種、フォトリーディングの要領で背表紙だけを目に焼きつけて本を探すのだという。マニタ書房の主力商品『竹内力 セーターズ』(竹内力をモデルにした手芸本)は見つかり次第購入するのだとか。
理想の古本屋へ行く夢をよく見るという吉田は、探している本がいきなり100円で何冊も並んでいるとテンションが上がって全部買ってしまうのだという。あるときは探していた『小林亜星の夫婦でダイエット』が大量に並んでいるのを見つけて全部購入。転売などするアテもなく、「亜星にあげる以外の道がない」(吉田)。
川津祐介『超能力健康法』をオカルト本コーナーからタレント本コーナーに戻すなど、「間違った棚に入っているのを見つけたときは、ちゃんと戻してあげたりします」と声を揃える2人だが、棚を間違いまくっている例の図書館に行ったらどんな気分になるかが少しだけ気になる。
1冊通して、東京だけではなく日本全国の個性的な書店が紹介されているので、旅のついでに良い書店を訪ねてみたいという気持ちにさせられる。まさに『本屋へ行こう!!』というタイトルにマッチした内容だ。
(大山くまお)