そんな古き良き時代の特撮番組で、90年代きっての名作とも称えられるのが「鳥人戦隊ジェットマン」です。
高年齢層を意識? 異色の戦隊ヒーロー
91~92年に放送された「ジェットマン」は、今年で40周年を迎えたスーパー戦隊の中でも一二を争う名作との声が高い一方、異色作という曰く付き作品としても知られています。
なぜなら、子供向けを標榜して作られていた同シリーズとしては珍しく、高い年齢層を意識したと思わしき内容だったから。昭和末期からこの頃にかけて一大ブームを起こした、トレンディドラマの影響が強く見られるのです。
ジェットマンのリーダー・天堂竜は、地球防衛の任務に就くスカイフォースのメンバー。防衛軍が開発したバードニックウェーブを浴び、レッドホークへの変身能力を身につけます。しかしその直後に敵組織バイラムの襲撃を受け、竜と同じくバードニックウェーブを受ける予定だった恋人・藍リエが行方不明に。その後再び襲ってきた敵集団の中に、なんとリエは幹部として加わっていました。記憶を失った様子のリエに迂闊に手を出せない竜ですが、悩みながらもバイラムと戦い続けます。

また、鳥人戦隊の設定も独特でした。結成過程は、バイラム襲撃の際、基地から漏れ出したバードニックウェイブを浴びた4人のごく普通の若者が、紆余曲折のすえ鳥人戦隊を結成し、地球の平和のために戦うというもの。メンバーは、良家のお嬢様、太っちょで実直な農業青年、女子高生、そして一癖ある遊び人のニヒルな男、とバラバラです。
戦隊メンバー間で展開される複雑な恋愛模様
その一方、メンバー同士の複雑な恋愛模様はどんどんと展開されていきます。それ以前にもストーリーの中に恋愛要素を持ち込んだ作品は「光戦隊マスクマン」などの例がありますが、「ジェットマン」はちょっと度が過ぎていました。
ホワイトスワンに変身する鹿鳴館香は財閥のお嬢様で、真面目で清楚ながら負けん気も強く、リーダーの竜に思いを寄せていきます。その香に惚れているのが、ブラックコンドルに変身する遊び人風の結城凱。竜に何かと対抗心をむき出しにし、香の気持ちを知りつつ強引にプロポーズするなどグイグイと自分のペースに持っていこうとします。イエローオウルに変身する大石雷太は純情で奥手ではあるものの、密かに香に思いを寄せている。でも、自分は器ではないと潔く引くという健気さを見せます。
そんななか、肝心の竜はというと、敵方に回ってしまったリエのことで頭がいっぱい。メンバー全員が三角・四角関係にあって、地球の平和は大丈夫なのかと、余計なお世話ながら大いに心配しまうところです。ちなみにもう一人のメンバー、ブルースワローに変身する女子高生・早坂アコだけは、まだ子供なのか、恋愛関係には絡んできません。
ラストに死が!? 衝撃の最終回
さて、そんな鳥人戦隊の戦いは、なんだかんだ順調に(?)続き、いよいよバイラムとの最終決戦を迎えます。度重なる戦いの過程で、リエは過去の記憶を取り戻し、悪の幹部マリアから元の藍リエに戻ります。
しかし悪の幹部だったことに罪深さを感じたリエは、竜の元へは戻らず、自分の運命を弄んだバイラムの幹部ラディゲを撃とうと決心。

最愛の人の死に怒り心頭、復讐の鬼となった竜は、ついにバイラムの壊滅を果たし、なんとか大団円。
とホッとするのもつかの間、最終回の最後の最後でとんでもない展開が待っていたのです。シーンが変わり、激しい戦いが終わった3年後の世界。竜は最後に自分を助けてくれた香とめでたく結婚式を挙げます。そんな幸せ溢れる式場に向かう凱は、二人に渡す花束を買っている時、チンピラに腹を刺されてしまいます。なんとか気力で式場までたどり着き、笑顔で二人の幸せを見届けた凱は、傍のベンチでタバコをふかすとそのまま崩れ落ちて、なんとそのままエンドマーク……!
恋愛こそヒーロー作品の重要要素
以上が「鳥人戦隊ジェットマン」が特別扱いされている真相です。もちろん、子供向けの人気番組だったため(当時はニチアサではなく関東圏では土曜夕方6時からの放送でしたが)、年相応だったみなさんの多くがこれをご覧になったでしょう。またバラエティ番組などで度々取り上げられたこともあり、割と知られた話かもしれません。「これが子供番組か?」「今見てもトラウマ必至だろ」との感想も多く聞かれます。
改めて考えると、実のところ「ジェットマン」は決して異端ではなく、ヒーロー活劇の王道を踏襲しているのではないかと思えてきます。ここまで恋愛模様がフューチャーされる例はないでしょうが、ヒーローとヒロインの間の恋愛感情を描く作品は、例えば「ウルトラセブン」のモロボシ・ダンとアンヌなどに見られます。他アニメでも「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」など、名作といわれるものには必ず入り込んでくる重要な要素です。
今こそ高まる「ジェットマン」の意義
近年の特撮番組は、クレームがうるさいのか、恋愛表現が抑制されるだけではなく、ヒーローが死を迎えて完結するストーリーが避けられたりする傾向があります。
こうした状況の今だからこそ、子どもたちに人の生き死にとは何かをしっかり伝える「ジェットマン」を再評価すべき時ではないでしょうか。
(足立謙二)
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