朝ドラ「あさが来た」(NHK 月〜土 朝8時〜)12月2日(火)放送。第10週「お姉ちゃんの旅立ち」第57話より。
原案:古川智映子 脚本:大森美香 演出:佐々木善春

57話はこんな話


襲名披露に重役として出席したあさ(波瑠)。概ね、皆に好意的に迎えられて無事に式を終える。
はつ(宮崎あおい/崎の大は立)は、よの(風吹ジュン)のはからいで、旅立ちの前、藍之助を伴って、加野屋であさと、ひと晩過ごすことになる。

新次郎と惣兵衛の名場面


「どっちの道がええかなんて誰にもわからへん」(新次郎/玉木宏)

新次郎と惣兵衛(柄本佑)がふたりでお酒を酌み交わす場面はもはや定番。
男ふたりのしみじみ感がいい。現代が舞台の朝ドラだったら屋台か居酒屋のカウンターなどが使用されるのだろうけれど、時代劇の風景は新鮮で画になる。
しかも新次郎が色っぽい都々逸を唄ってムード満点。サラリーマンがただ愚痴を言うだけでない豊かさがそこにある。
とくに57話では、いろいろ悩みを抱える男たちもようやく各々の道を進みはじめて少々開放的な飲みに。新次郎は妻が活躍しているだけだが、惣兵衛は大好きなアテ(紅白のかまぼこ)を店主(桂文珍)にサービスしてもらってぱくつく。柄本佑が江戸の流れをくむタフな庶民感(実際見たことないから知りませんが)を全身で表現すると、新次郎が若旦那のときよりいまの惣兵衛がいい男だと言うのがしっくりくる。ずっと抑えていた本来の魅力を発揮して活き活きしているのを見ると、これが狙いのキャスティングだったのだなと大いに納得。

居酒屋の店主役、桂文珍は、大森美香の朝ドラデビュー作「風のハルカ」ではヒロインが勤務する旅行会社の支店長で出演していた。
升毅、木村佳乃に続いて大森美香応援隊か。

応援するに足る大森美香脚本の妙は、57話では【眉山家の井戸】に集約されている。
明け渡したあと未だ更地になったままの土地に井戸の跡だけが残っているという空き地のリアリティー。さらには、「あのときあの暗闇からひっぱりあげてもらったんはほんまはわしのほうやったのかもわからへん」と惣兵衛に言わせることで、堕ちたはつが惣兵衛の気持ちを引っぱり上げたという価値観の転倒をここにもこめるだけでなく、ふたりがお互いを引っ張り上げたという、理想的な麗しい夫婦愛を強調する。
「井戸」を使った必然性がこんなにもしっかり描かれた、地味だが、名場面だ。
(木俣冬)

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