「1999年7月に人類が滅亡する」これは、かの有名なノストラダムスの予言である。1990年代後半、この予言が実現してしまうのではないかと恐怖に震えた。
結局は何も起こらずに2000年を迎えたわけだが、ノストラダムスの予言とは一体何だったのか? なぜ人々はあれほど騒ぎ、恐れたのか。当時を振り返ってみる。

「ノストラダムスの予言」とは?


まずは、予言を遺したノストラダムスについて。ミシェル・ノストラダムスは16世紀に生きた医師である。当時、ヨーロッパで流行していたペストの治療に尽力し、そのかたわら占星術の研究や詩の執筆も行っていた。また、未来を予言する能力を持っていたと伝えられ、数々の逸話が残っている。

ノストラダムスが記した「ミシェル・ノストラダムス師の大予言」(「諸世紀」と呼ばれることもあるが正確なタイトルではない)と呼ばれる著書に次のような一説が出てくる。

「1999年7の月、空から恐怖の大王が下りてくる」

このフレーズが、後に「ノストラダムスの予言」として世間を騒がせることとなった。1999年7月という具体的な日時が示されているうえに「恐怖の大王」という言葉のインパクトの強さから、恐怖の大王の正体について、隕石、核兵器、疫病などさまざまな解釈が生まれた。

ブームの火付け役! 五島勉著「ノストラダムスの大予言」


日本でノストラダムスの予言が注目されるようになったきっかけは、1973年に五島勉氏の著書『ノストラダムスの大予言』が出版されたことである。この本の中で、五島氏はノストラダムスの生涯や逸話に触れつつ、「1999年7月に人類が滅亡する」という自身の解釈を述べた。
この本はベストセラーとなり、映画化もされた。さらに、ブームのあおりを受けて五島氏の他にも独自の予言の解釈を発表する者が次々と現れ、メディアを騒がせることとなった。

ノストラダムスの予言にまつわる世論


この本が出版された当時の日本は、公害問題などで将来に対する不安が蔓延していた。高度経済成長により日本は豊かな国になったが、同時に、豊かになれば明るい未来になるとはにわかに信じられない時代になっていた。
そのような状況だからこそ、「人類の滅亡」というキーワードに注目が集まった。漫画「ちびまる子ちゃん」でも、まる子たちがノストラダムスの予言におびえる様子が描かれている。

1990年代後半になるとバブル崩壊による不景気に加え、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件といった社会を震撼させるような出来事が起こり、日本中に「不安感」があふれていった。こうした状況もあいまって、このままでは本当に人類が滅亡するのではないかという空気に包まれていったのだ。

ノストラダムスの予言が我々に遺したもの


数々の憶測を生み、世間を騒がせたノストラダムスの予言だったが、結局1999年7月になっても人類が滅亡するような出来事は何も起こらず、人々は胸をなでおろした。そして、いつしか予言のことは忘れ去られていった。

今となっては「あんなデタラメの予言に振り回されて騒いだのがバカみたいだ」と笑う人がほとんどであろうし、この時代を生きていない若者にとっては、なんてアホらしいんだと思われるかもしれない。
とはいえ最近でも、2012年のマヤ暦の予言が話題になった。社会全体に対する不安感が解消されない限り、これからも「人類滅亡の予言」が現れるかもしれない。

ちなみに「ちびまる子ちゃん」にはこんなシーンがある。ノストラダムスの予言を信じたまる子は「予言どおり人類が滅亡するなら勉強したって意味がない」と翌日にテストがあるにもかかわらず、親に注意されても知らん顔して漫画を読みふける。しかし、お姉ちゃんに「予言は外れることもある。
そうなったらあんたは残りの人生をバカな大人として過ごすことになる」と諭され、慌てて勉強を始める。
まる子のお姉ちゃんの言うとおり、予言は外れることもある。「予言をあまり気にしすぎてはいけない」ノストラダムスの予言をめぐる騒動はそのことを教えてくれたのかもしれない。
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