「大五郎ーー!!」「ちゃーーーん!!!」

この掛け合いでお馴染みの時代劇といえば、『子連れ狼』です。流浪の剣客・拝一刀と、乳母車に乗るその息子・大五郎が繰り広げる冒険活劇は、1973年~76年に日本テレビ系で放送され、大変な評判を呼んだそうです。

もっとも、40年以上前のドラマであるため、馴染みが薄い人も多いはず。現在の20~30代にとっては、『ごっつええ感じ』で松本人志と東野幸治がやっていたコントとして、認識している人の方が多いのではないでしょうか?
ごっつ版『子連れ狼』は、冒頭に記した単純な掛け合いを、何故か言い間違い続ける拝一刀役の東野と、大五郎役の松本に対し、監督役の今田耕司が「何で出来ひんのや!」と怒るというもの。このコントでは今田は、松本のことを「西川くん」と呼んでいました。

なぜ、「西川くん」なのかというと、ドラマ版で大五郎役を演じた俳優の実名が、西川和孝だから。ごっつ放送の遥か前に芸能界を引退し、すっかり過去の人となっていた「西川くん」は、1999年、突如として脚光を浴びることとなります。
しかしそれは、俳優としてではなく、殺人事件の加害者としてという、最悪な形でした。


わずか5歳! 『子連れ狼』でデビューした西川和孝


『子連れ狼』で俳優デビューした際、西川くんはまだ5歳の幼児。その容姿には、漫画家・小池一夫が描いた原作版「大五郎」のイメージにピタリとハマるあどけなさと愛くるしさがあり、一躍、お茶の間の人気者に。
その後も、俳優活動を継続していたようですが、大五郎役の印象からなかなか脱却することは叶わず。結局、高校卒業と同時に芸能界引退&渡米。アメリカでは、英会話とマリンスポーツの勉強に精を出していたようで、帰国後、新潟県内のスイミングスクールにて、水泳指導員として勤務することになります。

水泳スクールの経営担当→市議会議員、順風満帆に思えたが…


ほどなくして西川は、職場で出会った同僚の女性と結婚。そこからしばらくすると、スクールの運営を一任されるようになり、95年には市議会議員にも当選。順風満帆なセカンドキャリアを送っていたのですが、結局、この「第二の春」も長くは続きませんでした。


ギャンブル好きだった彼は、いつしか多額の負債を抱え込むようになり、結果、スクールの運営から外されました。おまけに議会へは遅刻・欠席を繰り返すという、体たらくっぷり。
挙句の果てには、水商売の女性に入れあげて、彼女の知人男性に殴られるという退廃的な生活を送っていたといいます。そんな折に、事件は起こってしまったのです。

融資を断られた逆恨みに殺害、西川和孝の末路


西川は99年、知人から借金をして新潟市内に麻雀店をオープンします。水泳スクールの経営権を失った彼にとっては、再起を賭けた一世一代の大勝負だったのでしょう。

しかし同年11月30日。雀荘の資金繰りに困り、貸金業者の佐藤という男性に融資を依頼したものの断られたために、殺害してしまうのです。

逮捕を恐れてタイへと逃亡したのですが、強制送還されあえなく御用に。2000年10月3日には、新潟地方裁判所で無期懲役の判決が下され、2016年の今も服役しているといいます。
逆恨みで人を殺めるなど、言うまでもなく言語道断。かつて武家の子を演じた者の所業とは思えない、恥ずべき愚行です。
事件の2年前、1997年に惜しまれつつも鬼籍に入った、拝一刀役の萬屋錦之介も、きっとこの報を受け、草葉の陰で泣いていたに違いありません。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより子連れ狼 若山富三郎版 コンプリート DVD-BOX (全7作品, 596分) こづれおおかみ 時代劇映画 [DVD]