
90話はこんな話
あさが買った炭坑で石炭がたくさん出た。みんなはあさの強運に感心するばかり。
こんなふうに仕事はいたって順調なあさだが、聞き分けのいい千代が昨年書いた七夕飾りのお願いを見て、涙する。
あさを支え続ける新次郎
「あさは泣きました」ってナレーション、要るかなと思ったが、朝ドラにはやっぱりこういう念押しが必要なのだろう。
あさを泣かせた七夕のエピソードは、見ているほうにも強く刺さった。
今年の七夕飾りに「ラムネが飲んでみたい」と書いた千代に、子供らしい願いだと微笑むあさに、榮三郎の嫁さち(柳生みゆ)が去年の飾りを見せる。そこには、お母さんとたくさん遊びたい と書いてあった。これをさりげなく見せるさちができたひと!
89話で、あさが千代に、商いが好きなこととその理由を語ったとき、妙に聞き分けがよかった千代だったが、幼心にじっと我慢していたのだ。それで今年のお願いは、母を困らせないよう、たわいのないものにしたのだろう。それに気づいて、あさは涙が止まらない。
長らく、女が耐えることへの問題定義をしてきた「あさが来た」が、子供が我慢することにも目を向けると同時に、子供がいかに大事な存在かということにも言及しはじめた。
今まで一度も、誰に言われても働こうと思わなかった新次郎が、千代に「なんで働かないの?」と言われると刺さると言うのも、そのひとつ。
少子化対策や育メン推進の描写を要れることをどこぞから要請されているんだろうなあ、と穿った見方をしてしまうものの、新次郎のキャラがよくできているので、さして気にならない。
あさの頑張りを見つめる役割を引き受けてきた新次郎が、今度はあさと娘の理想的な関係のために仕事をしようかと思うのは不自然ではない。
しかも、“実”はちゃんとある。それは本をたくさん読んでいたり、芸事をしっかり追求していたりするところでわかる。玉木宏がまた、単なるひょろっとした優男ではなく、舞台で戦場カメラマンを演じたこともあるくらい、意外と骨太なところがあるので、説得力も抜群だ。
妻と子供のために自らはバックアップにまわる新次郎と、孤軍奮闘、理想に燃えて、社会改革のためのビジネスを進めていく五代。「あさが来た」の五代には妻子がいないと考えるしかもはやないだろう。だからこそ、こうして新次郎との対比にもなるというものだ。
新次郎の生き方について、五代(ディーン・フジオカ)と美和(野々すみ花)が語り合い、その後、五代がカウンターに突っ伏す。お酒やめればいいのに、やめられないんだなあ。ひとり者だし(もう勝手に決めつけていますが)、余計に不摂生になってしまうのだろう、このドラマでは。五代のもみあげの白髪が痛ましい。
(木俣冬)
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