
前回のラスト、弟子の与太郎に聞かせる形で八代目・有楽亭八雲の語りが始まった。時代は一気に戦前へと遡り、昭和10年代まで戻る。ゆえあって七代目・有楽亭八雲の内弟子へと預けられた「坊」こと前座名・菊比古(のちの八代目八雲)と「信さん」こと前座名・初太郎(のちの有楽亭助六)は同日同刻に師匠宅の門をくぐり、弟子入りする。修業を開始した2人が数年後、初高座を踏むまでが第2話の流れである。
落語の世界では入門順が絶対
ここで大事なのは八雲宅の門前で菊比古と出くわした初太郎が、先んじて中に入って先に弟子入りした既成事実を作ろうとすることだ。落語の世界では年齢と無関係に一日一刻でも早く弟子入りしたほうが「兄さん」であり、その順列は出世の如何に関わらず一生続くからである。
この決まりはもちろん現在の落語界でも守られている。ただし、何をもって「入門」と見なすかは団体によって違うはずである。たとえば落語協会では、師匠に弟子入りをお願いして許可された日ではなく、協会に届けを提出した時点で落語家の見習いとして認められたものとされる。若手真打として人気のある春風亭一之輔は、師匠・一朝が機転を利かせてくれたおかげで得をしている。一朝は一之輔に、入門を認めたその足で協会事務所に伴い、履歴書を出させたのだ。