
ドラマでは冒頭に密室殺人事件を1つ追加し、それを探偵・火村英生の紹介篇として使っていた。「絶叫城殺人事件」が第1回に選ばれた理由の1つは、これではないかと思われる。「被害者同士に共通点がなく、連続殺人犯の動機を探すことが解決の糸口となる」タイプの謎解き小説は「ミッシング・リンク」、すなわち失われた環探しのミステリーと呼ばれていて、事件に至るまでの被害者たちの人生を書き込む必要がないため(言葉は悪いが駒として扱えるので)、その部分を圧縮して冒頭に入れごとをするのが容易だったのではないか。原作にあたる部分の尺は短くなったが、省略によって内容が損なわれたわけではないので、忠実なドラマ化を望むファンもひと安心したことだろう。
では、第1回から判った原作とドラマの差異についてまとめておく。
(原作については、前回の記事をご覧ください)
男の園に女性キャラクターが追加された
いちばん違いがあるのはキャストだ。
火村が教える英都大学の学生・貴島朱美(山本美月)、火村に対抗意識を見せる新任の刑事・小野希(優香)、カルトの教祖・諸星沙奈江(長谷川京子)と、3人のレギュラーが追加されている。原作はほぼ火村とアリスの物語であり、そこに警察官たちが絡むという内容なので、たしかにドラマとしては女性要素を追加したくなるだろう。それぞれ肚に一物ありそうだし、特に諸星沙奈江はストーリーの帰趨を左右しそうなので、今後も注目していきたい。
火村&アリス・チームに対する警察側の窓口になっているのは、原作では船曳警部である。海坊主と仇名されるような風貌の巨漢なのでキャスティングはどうするのかと思っていたら、生瀬勝久演じる鍋島刑事に変更された。その鍋島の部下である坂下刑事(清水一希)は、原作の森下刑事だろう。
もう1人大事な女性キャラクターは、火村が住む下宿の主・篠宮時絵だ(演じるのは夏木マリ)。
火村はどこへ行こうとしているのか
怪しいカルト集団は何なのか、など現時点では判明していないことがいくつかある。その中でいちばん気になるのは、ドラマ版の火村英生はどのような人物として描かれるのか、ということだ。
ドラマ第1回の序盤で貴島朱美の質問に対して、火村が人を殺したいと考えたことがある、と答える場面がある。原作にもある設定だが、火村がそう言うことの真意はまだ明かされていない。ドラマでも人物造形の要としてこの部分に切りこむはずで、どういう解釈をするのか気になるところである。
また、ドラマ版のオリジナルの台詞として、火村が「この犯罪は美しくない」と断じるものがある。火村が何を考えて犯罪と犯罪者に向き合っているのかを考えると、彼がこの台詞を口にするのは妥当か否かで議論が起きるはずである。
そういえばずぶ濡れになった火村がアリスの部屋で「泊めてくれないのか」と仔犬のような目をして言う場面は印象的だった。そうか、ドラマ版は犬キャラなんですか。
第1回を観て原作が気になった方のために
前回もまず読むべき10冊として挙げた原作だが、「残虐表現がユーザーの心理に悪影響を及ぼす」という言説に向き合った内容はドラマでも一部再現されていた。これはぜひ小説も読んで、原作版のアリスの述懐にも耳を傾けてほしい。
また、火村英生の推理術について、アリスがおもしろいことを言っている。ちょっと引用しておこう。ある人物の会話においてアリスは、事件の全体を観察して火村が見抜くものは、第一に「犯人が拠り所としてもの」ではないかと言い、その表現が理解されなかったと見てとると、こんなことを考える。
──つまり、こうなのだ。火村がフィールドワークと称して警察の捜査に加わり、犯人を追い詰める場に立ち合う度、私には奇異に思えることがしばしばあった。
犯人指摘の場面など、上記のような探偵の姿勢を知りながら観ると、またおもしろいはずである。
今回のような「ミッシング・リンク」ものとしては、「ABCキラー」『モロッコ水晶の謎』という作品もあるので、気になった人はそちらもどうぞ。また、火村が自身の内奥について吐露した作品として長篇『朱色の研究』も挙げておく。ドラマ中でアリスが夢想する場面は、この作品から連想して作ったものではないかな。
そんなわけで第2回も実に楽しみである。原作「異形の客」は短篇集『暗い宿』所収。
(杉江松恋)