当時、クラス内ではボン・ジョヴィの『Cross Road』かエアロスミスの『Big Ones』を入り口に洋楽の扉を開ける同級生が多かった。
それ以前より“洋楽派”に転向済みの筆者ではあったが、エアロスミスの『Big Ones』や『Get a Grip』はかなり愛聴していた。曲がいい、声もいい、演奏はカッコいい、見た目がイケてる。理屈をこねくり回して音楽に触れるのも楽しいが、当時のエアロスミスこそは“理屈抜き”という表現がピッタリであった。
海外アーティスト初の“4大ドームツアー”を敢行!
エアロスミスの歴史を振り返ると、やはり70年代に訪れた“第1期黄金時代”に目が行ってしまう。しかし、90年代のエアロスミスのパワーは物凄かった。否定表現として使われがちだが、この頃のエアロスミスは「アリーナロック」の権化であった。
決して、揶揄しているわけではない。ニルヴァーナの出現により80年代の人気バンドが撃墜されていく中、エアロスミスだけはモンスターになっていったのだ。何しろ、ニルヴァーナ自体が「Aero Zeppelin(エアロ・ツェッペリン)」なるタイトルの曲を制作している。カート・コバーンも、エアロスミスのことは愛聴していたらしい。グランジ勢からのリスペクトも集めていたがゆえ、エアロスミスだけは順調にキャリアを重ねることができた。
この好調ぶりは、日本においても同様。なんと1998年には、海外アーティスト初となる“4大ドームツアー”を敢行している。
暗黒ロード真っ只中だったエアロスミス
先ほど、70年代に訪れた“第1期黄金時代”に触れたが、彼らに“第2期黄金時代”が訪れたのはRUN-DMCが1986年にカヴァーした「Walk This Way」が契機である。それまでのエアロスミスは、出口の見えない暗黒ロード真っ只中であった。
何がいけなかったのか? 1976年に発表された『Rocks』の成功により、エアロスミスは我が世の春を謳歌していた。そんな浮かれたバンド内で、ドラッグ癖は急激に深刻化していく。
1977年発表『Draw the Line』は、全員がドラッグ漬けの状態で制作された作品。とても写真撮影できる状態になかったので、ジャケットがイラストになったという逸話もあるほどだ。次作『Night in the Ruts』では楽曲のクオリティが著しく低下し、遂には1979年にリードギタリストであるジョー・ペリーがバンドを脱退。
その後、エアロスミスもジョー・ペリー・プロジェクトも成功とは程遠い結果が続き、「ドラッグとアルコールからの脱却」を誓って84年に再結成を果たすこととなる。満を持して85年に放たれた再出発作『Done With Mirrors』は、周囲の期待も虚しく見事な失敗作に終わってしまった。
その後、RUN-DMCによる「Walk This Way」がMTVでヘビロテされ、彼らに追い風が吹き始める。このタイミングでコケるわけにはいかない。87年発表『Permanent Vacation』では露骨に“売れ線”を狙い、そのなりふり構わない姿勢が功を奏す。
とは言え、『Permanent Vacation』には今後ライブで演奏されないであろう曲が少なくない。木村拓哉主演ドラマ『エンジン』の主題歌に使用された「Angel」はこの作品に収録されているのだが、スティーヴン・タイラーはこの曲を嫌悪している。
ロック史上に残る大復活! 「実験精神がなきゃ、いけないわけ?」
彼らが真の復活を果たしたのは、89年に発表されたアルバム『Pump』である。エアロスミスらしさと大衆性を高い次元で両立したこの作品には、昔からのファンも熱狂! 『Permanent Vacation』に伴う来日公演は不評であったが、『Pump』の来日公演では見違えるような評価を獲得した。例えば、「Pump Tour」東京公演を取材した「ミュージック・マガジン」(1990年11月号)の記事がかなりの読み応えなので、以下に再現したいと思う。
「どこかに新機軸があったり、実験精神が飛び散っていたり、広い視野で世界の音楽を吸収しようとしている姿勢が見えたり、そういうことは一切ない。むしろ、そういうものがなきゃいけないわけ? とでもいうようなものである。(中略)それがダメとかイヤだとかいうのなら、そこで話を終わりにしてもらって結構だ」
「横丁のレストランのように、とびきりおいしくもまずくもないのだが三日に一度足を運びつづけても飽きがこない居心地のいい味というものである。少々大味だが、そこの従業員の汗が混入しているようなチーズ・バーガー。これを旧態依然という奴には、旧態を維持しつづけるエネルギーだって並大抵のものじゃない、とエアロスミスは答えていた」
いかがだろうか? 「エアロスミス」と「大衆性」と「アリーナロック」を一挙に言語化した名リポートだと思うのだが。
エアロスミスの常軌を逸した無茶! 日本武道館7連続公演
エアロスミスが「アリーナロック」としてピークを迎えたのは、93年に『Get a Grip』を発表した頃であろう。アルバムからはあからさまなテンションの高さが伝わってくるし、同作に伴うツアーではメンバーから放たれる異常なエネルギーを容易に察することができた。
この時の来日公演は、伝説である。
「アルバムを作っても売れない。もう、作る意味がない」
あれから長い年月が経ち、2012年に発表されたアルバム『Music from Another Dimension!』。内容は悪くないと思うのだが、どうもあまり売れなかったらしい。
ドラマーであるジョーイ・クレイマーは結果に落胆し、以下のような発言を残している。
「アルバムを作るって素晴らしいことだと思うよ。でも“なんで、わざわざ?”って気もする。売れないし、なんにもならない。(中略)今はツアーが収入源だ。アーティスト的には、アルバムを作るのは楽しいし、素晴らしいことだと思う。
誤解しないでいただきたいが、いまだエアロスミスはレジェンドである。スティーヴン・タイラーは、もはやセレブと呼んで差し支えない位置にいる。
とは言え、もうアルバムは売れない。が、ライブに足を運ぶファンは多い。エアロスミスは、良くも悪くも「アリーナロック」を体現するバンドになってしまったのだろうか?
(寺西ジャジューカ)
ヴァケイション・クラブ