ゲームが日進月歩の進化を見せていた90年代中盤。各メーカーがしのぎを削って最新の家庭用ゲーム機を登場させていた最中に、まさかのタッグが覇権争いに参入を試みた。
パソコンなのか?ゲーム機なのか?
バンダイ・デジタル・エンタテイメントがアップルコンピュータと共同開発した「ピピンアットマーク」は、家庭用ゲーム機でありながらマッキントッシュと互換性を持たせたことが最大のウリだった。ピピンアットマーク専用ゲームが遊べるのはもちろん、Mac向けのゲームが遊べたりソフトが利用できたのだ。また、インターネット接続が可能であるという点もポイントだった。まさに時代を先取りした奇跡の一台だったかもしれない。
しかし、当時パソコンといえばWindows 95時代がまさに幕開けしたところ。Mac互換はまったくウリにはならなかった。餅は餅屋、ゲームはゲーム機でやるものだし、インターネットはパソコンでやるものであり、なおかつ未知な部分が圧倒的に多いものだった。
パソコンのようでもあり、ゲーム機のようでもあるピピンアットマークは、どっちつかずの一台でしかなかった。
全世界で販売台数4万台ちょっと…
家庭用ゲーム機の市場では、ちょうどその頃セガサターン、PlayStation、Nintendo64が三つ巴の戦いを繰り広げていた。そこに投入された、ピピンアットマーク。そんなどっちつかずのハードで競争が激化するはずもなく、三つ巴が四つ巴になることはなかった。
さらに、ピピンアットマークの販売方法も悪かった。
その価格も大いに問題だった。標準でインターネット通信を行うためのモデムを搭載していたこともあり、実に6万4800円とゲーム機としては致命的に高額だった。その後、モデム別売りの廉価版を一般店舗でも販売開始するが、それでも4万9800円。世間を席巻している他のゲーム機たちと比べて明らかに高額すぎた。
ピピンアットマークに魅力的なゲームタイトルがなかったという根本的な問題もあった。「ドラゴンボール」など人気のバンダイ版権を利用したものも投入されたが、それはゲームではなく年賀状でも作るのか?といったイラストソフトだった…。また、「ガンダム」のゲームも発売されたが、なぜかキャラクターは外国人俳優を使った実写。赤い彗星シャアにいたっては、“アゴい彗星シャア”と呼ばれるほどに顔はふっくら、アゴが特徴的な似ても似つかぬ顔をしており、版権の無駄遣いとなってしまった感が否めない。
ピピンアットマークは、時代を先取りしすぎてしまったこと、高額すぎる販売価格、悲しいくらいに魅力なきゲームなど様々な要因が重なり、2年間でたったの4万2000台しか売れなかった。「日本で」ではない。「全世界で」だ。
(空閑叉京/HEW)