日本全国、津々浦々に「地元パン」がある。おいしいものはもちろん、かわいかったり変だったり、その土地の歴史に深く関わったものなんかも多い。


そんな地元パンを北海道から沖縄まで200以上、図鑑のようにあつめたのが「地元パン手帖」だ。
あやしいパン、かわいいパン「地元パン手帖」に全国のパンが大集結
『地元パン手帖』甲斐みのり/グラフィック社

地元を離れて久しい人には懐かしかったり、逆に「これってローカルだったの?」と初めて知ってショックを受けたり。とてもきれいにビジュアルがまとめられているので、古いパッケージや珍しい紙袋など、デザインに興味がある人もおおいに楽しめる。
あやしいパン、かわいいパン「地元パン手帖」に全国のパンが大集結
どのページもきれいにデザインされていて、パンの魅力を伝えている

各パンにはさまざまな文章で説明が書かれている。志賀直哉の弟が設計したパン屋、各地に複数存在する「頭脳パン」の比較、パン屋のキャラクター図鑑など、無限の切り口であれこれ詰まっていて満腹間違いなし。いい写真に深みのある文章、ぜいたくだ。
あやしいパン、かわいいパン「地元パン手帖」に全国のパンが大集結
パッケージやキャラクターについてのページもたっぷり!

あやしいパン、かわいいパン「地元パン手帖」に全国のパンが大集結
文章も読み応えあり。各店の住所なども載っているので気になったお店を訪ねることも可能だ

どのページもにぎやか、日本全国ほんとうによく集められている。それらが単に一冊になっているだけではなくて、「一人で各地に出向いて採取した」というセンスの統一感があってとても良い。

著者は10年以上かけて各地方を取材したという。その間になくなったパン屋もあるし、事情で掲載されなかった店もある。また、全国全ての都道府県がまんべんなく載っているわけでもない。でも、そのリアルさが逆に「よくこんなにしっかり回ったな!」と思える。
伊能忠敬の日本地図のズレを見て「こんだけしか誤差ないのね…!」と、むしろゾッとするあの感覚。

単に「おいしいお店大集合!」ってわけじゃない。一軒一軒が「創業90年」や「あんぱんの創始者」だったりするのだ。名物パンが生まれた経緯、どんな愛され方をしているのか、丁寧に書かれていて非常に見応えがある。「歴史があること」イコール「エラい」わけでは必ずしもないけれど、食べるだけではもったいないドラマが、どのパンにもある。

甲斐みのり著『地元パン手帖』はグラフィック社より発売。(香山哲)
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