なぜ、松本人志がこの時間に?


かつてこの番組をリアルタイムで目撃した人は、誰しもがそう思ったはずです。『働くおっさん人形』と『モーニングビッグ対談』。どちらも5:45~6:00にフジテレビで放送していました。
しかも、日曜日です。平日ならば、仕事で早起きのサラリーマンや勤勉な学生が、目にする機会もあるでしょう。しかし、お年寄りしか視聴する人がいないと思われる未明の時間帯において、当時「お笑い界の帝王」として君臨していた松本人志が番組を持っているのは、すごく違和感でした。

朝5時台では明らかに異質の2番組


番組自体も、朝5時の起き抜けに見るような内容ではありません。『働くおっさん人形』は、一言で言えば、おっさん観察型バラエティ。どこから連れてきたのか分からない、どこにでもいそう、でも、どこかおかしい個性豊かなおっさんを小部屋に呼んで、まるでAVの素人モノのような、カメラ定点・正面撮り&質問というスタイルで、その生態を松本が暴いていくといったものです。番組後期になると、おっさん5人を一部屋に集めて、松本の指示でさまざまなことをやらせていきます。その絵面は、箱庭でじゃれる、モルモットそのものでした。
『モーニングビッグ対談』は、名前こそ、真面目な対談番組を思わせますが、その実態は、一見さんを欺くフェイク・ドキュメンタリーです。「元グリーンベレー」「天才無免許医師」「元NASA職員」など、尋常ならざる経歴の持ち主が、モザイク入りで登場し、彼らと対面に向かい合った松本による、インタビュー形式で進行していきます。もちろん、これらゲストは全員、偽者。松本と知己のある芸人仲間が務めています。
この2番組の空気感は、『ごっつええ感じ』とも『ガキの使い』とも異質。
強いてあげるならば、かつて放送していた深夜番組『一人ごっつ』、あるいは、ビデオ作品『ビジュアルバム』の延長線上にあるような印象です。どちらも松本主導の企画でした。

「超・放送規制時代」の到来を予感させる、ある事件


深夜番組、ビデオときて、なぜ早朝番組なのか? おそらく、松本人志は自由に表現できる場を求めていたのでしょう。
『働くおっさん』が放送開始した2002年から、遡ること2年前。2000年に起きた一つのニュースが、テレビ業界を震撼させます。放送倫理・番組向上機構 (BPO)が、テレビ朝日で放送していた深夜番組『おネプ!』のワンコーナー「祈願成就!出張ネプ投げ」と、フジテレビの『めちゃ×2イケてる!』で当時社会現象にもなった人気コーナー「しりとり侍」における内容を問題視したため、それぞれの企画が打ち切りとなったのです。ゴールデンタイムの『めちゃイケ』はおろか、深夜枠の『おネプ!』にまで放送規制が入ったという、かなりショッキングな出来事でした。今振り返ると、この辺りから、現在のテレビ番組に蔓延する放送自粛傾向が加速していったように思います。

たどり着いた、内輪で好き勝手できる場所


そんな時代の到来に、荒唐無稽で過激な笑いを志向していた松本が、息苦しさを感じていたのは想像にかたくありません。それに本来、彼は、明石家さんまのように、クラスの人気者あがりの芸人ではなく、コソコソ話で盛り上がるような、小グループのリーダーを張るのが好きだったタイプ。それは、中学時代、校内の放送室を内輪の溜まり場にしていたという逸話からも、結婚前まで「松本軍団」と呼ばれる、後輩芸人で固めた取り巻き集団を形成していたことからも明らか。スポットライトを浴びる華々しいステージよりも、気を許した仲間と好き勝手に楽しめる遊び場の方が、欲しい男なのです。
だからこそ、必要以上人目に付ない分、批判が生まれにくく、かつ、観たい人だけが早起きするなり録画するなりして視聴できる「早朝」という居場所に、お抱えのスタッフを引き連れて、行き着いたのだと推測されます。


事実、この2番組での松本は、肩の力が抜けていて、心から楽しんでいるように見えます。その姿は、『ワイドナショー』でどっしりと構える、芸能界のご意見番然とした松本人志よりも、自作映画の試写会でいっぱしの監督として振舞う松本人志よりも、余程、松本人志らしい松本人志でした。
(こじへい)
※画像はamazonより「働くおっさん人形」DVD
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