朝ドラ「あさが来た」(NHK 月〜土 朝8時〜)3月9日(水)放送。第23週「大番頭のてのひら」第135話より。
原案:古川智映子 脚本:大森美香 演出:新田真三
妻が夫を悪く言うのは自慢なのか「あさが来た」135話
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いろんな痛くて愛おしい女たちが登場する

135話はこんな話


奇跡的に雁助(山内圭哉)が目覚めた。雁助の家族、そして、加野銀行の面々は喜びに沸く。

健気な、うめ


友近がすごい。
うめが出て来ると、完全に彼女が場を支配してしまう。
はつ(宮崎あおい/崎の大は立)か、うめか、という感じ。

135回では、榮三郎(桐山照史)が、またまた招き猫に見つめられながら、生命保険会社を、加野屋の第三の事業にしようと決意したり、千代(小芝風花)が初恋の人(工藤阿須加)と再会したり、新次郎(玉木宏)がまた旅行に行きたいとあさ(波瑠)に言ったり、大事な場面がたくさんあるにもかかわらず、うめのインパクトが強い。まさかこんなに彼女の役が大きくなるとは
ドラマがはじまったときは思ってなかった。

雁助が目覚めた時、目の前にいたのはうめだった。

もう何年も経っているのに、はっと気づくと、うめがいた時の雁助の気持ちはいかばかりか。
でも、うめは部外者。復活を喜ぶのは、家族優先だ。

「石頭」「やかましいわ」とツネ(松永玲子)と雁助が夫婦らしいぶっきらぼうなやりとりをする。そうしながら、うめをチラ見する雁助。
うめもチラ見。
うめに礼を述べるツネの「身内でもあらへんのに」という言葉の無意識なのか微妙に意識的なのかわからないが、とにかく棘。

その場面の前に、うめはあさに、世の奥方が夫を悪く言うのはなぜなのか、夫婦(めおと)とはけったいなものだと疑問を投げかける。
“妻だけは夫の悪いとこを知ってる自慢?”と問ううめに、あさは「愚痴6割、(他人の意見を聞いて)安心したい気持ち4割」と答える。おお、珍しく、あさがうめより優位に立っておる。

あさやツネから、うめが未知なる夫婦愛について考えさせられて、大阪に帰ってくると、「胸の痛む思いがもういっぺんできるなんて」とどこまでも純粋。

いろいろ押し殺しているうめをいじらしく演じている友近は、「あさが来た」と同じくNHK制作の「祝女」シリーズというコント番組(レギュラー放送として2010年からはじまり、シーズン3まで制作されている)では、愛人キャラを面白艶やかに演じていた。
ひとりの男の愛人3人が集り、牽制し合いながら、仲良く語り合う「愛人同盟」という人気コントで、舞台版でもこのコントが上演された。
ここでの友近は、愛人1号の貫禄を見せていて、うめのような一歩も二歩も引いた女とはまるで違う。いけずな正妻役なんかも巧く演じられそうだし、万能だな、友近。
うめの良さは、友近が自己憐憫をいっさい見せずにうめを演じているところだろう。
「あさが来た」は、本来この時代に多くあった妾問題をいっさい出さず、それでも、男の事情に振り回される女の苦しみと、それを乗り越えていく女のしなやかさをしっかり書いている。
それが、うめに託されていたとは、びっくりぽんだが、ブラボーだ。
(木俣冬)

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