
今シリーズを通してのオリジナルヒロインといえば、レベッカ・ロッセリーニ。第1話でいきなりルパンと結婚式を挙げたイタリアの富豪令嬢にして、スリルを求めて自分自身も泥棒を働くというアドレナリン・ジャンキーだ。
レベッカがロッセリーニ家のお宝を狙ったルパンからのプロポーズをあえて受けたのも、飽くなきスリルの追求のため。実は心から愛した男・浦賀航がいたのだが、浦賀が殺されてしまったことで彼女の恋はかなわず。浦賀の遺言「リベルタスに生きろ」を忠実に守り、自由奔放に生きている、というのが今シリーズ前半戦のメインエピソードだった。
峰不二子曰く、誰かのものになる男はつまらない男
後半戦になって、やや影が薄くなっていたレベッカだが、今回は久しぶりに冒頭から登場。自作の赤ワインの味に物足りなさを感じ、大胆不敵にも「ルパンを盗む」ことを決意する。ワインにルパンのスパイスをひと振り、といったところか。
一方のルパンは、イタリア中の銀行の金庫に片っ端から忍び込んでいる最中。金庫の中で何かを探しているようだが、見つからなければ何も盗まずに帰ってしまう。ホントに今シリーズのルパンは他人のモノを盗まない。
ルパンとレベッカは、ザルすぎる警備をカンタンにくぐり抜けて、いくつもの銀行の金庫の中で追いかけっこ。捕まえたいレベッカに、捕まらないルパン。
ルパンが銀行の金庫で探していたのは、次元が落書きした100ユーロ札。アジトの掃除をどっちがするか、一晩で札が見つかるかどうかで賭けをしていたのだ。呆れながらルパンに銃口を突きつけるレベッカ。
「今夜一晩、私のものになって!」
富も名声も美貌もすべて手に入れたレベッカにとって、ルパンはスリルそのものであり、リベルタス(自由)の象徴だ。だからこそ、是が非でも手に入れたい。しかし、そんな二人のやりとりを、レベッカの執事ロブソンと一緒に見物していたのが、誰よりもルパンのことを知る女・峰不二子である。
「あぁ、どっちに転んでもあの子の負けね。だって、手に入っちゃったら、ルパンはあの子の好きなルパンじゃなくなる」
「というと?」
「誰かのものに成り下がる男の、どこにスリルを感じるっていうの?」
どうしても手に入れたいのに、手に入れた瞬間にありふれたつまらないものになってしまうという矛盾。そういえば、ルパンは苦労して手に入れたお宝を台無しにしてしまってもイヒヒと笑っていたり、手もとに残ったお宝のひとかけらを惜しげもなく捨ててしまったりすることが多い。お宝を手に入れた瞬間、もう次のたくらみで頭がいっぱいになるのだろうか。
ルパンの心を盗める女は、この世にいない?
そうこうしているうちに警察が銀行に集まってきた(遅い)。警官隊に包囲されるルパンとレベッカ(一応顔は隠している)だが、ロブソンの援護もあって2人はやすやすと囲みを突破する。
ルパンに助けられながら「助けなんかいらない」と駄々をこねるレベッカだが、ルパンは「これを助けられたととるか、スリルととるかは任せるぜ」とオトナな回答。
「レベッカ、考え方ひとつで世界は変わるんだ」
どんな退屈な世界だって、自分の考え方ひとつで見え方は変化する。泥棒をしたり、お宝を手に入れたりしなくたって、よく見りゃ世界はスリリングなことだらけじゃない? レベッカの愛した男・浦賀は「作られた世界の中に自由はない。自分の手で世界を作る自由、それがリベルタスだ」と語っていた(12話)。二人が言っていることは、ほぼ同じである。いつしか、ルパンの横顔が浦賀と被る。
「あたし、いつか絶対あなたを盗むから」
「世界中の誰にも俺を盗ませはしねえ。俺を誰だと思ってんだ」
ルパンはレベッカを安全な場所まで連れ出し、執事のロブソンに送り届けてバイナラ。残されたレベッカは、ロブソンとともに“スリルの後の一杯”を堪能する。
ルパンが寅さんなら、レベッカはマドンナじゃなくて満男
今回のエピソードの主役はレベッカだが、お話のカギになっているのはレベッカが作った赤ワインである。もともとレベッカは、浦賀との約束で白ワインしか飲まなかった(10話)が、浦賀との過去と訣別して赤ワイン作りを決意した(12話)という経緯がある。
ところが、未来を意味するはずの赤ワインの味が物足りない。白ワインには浦賀との甘い時間の記憶が加わっていた。ならば、赤ワインにはルパンとのスパイシーな時間の味つけが必要になると考えたのだろう。
ルパンは容易にレベッカに盗まれたりはしない。だけど、俺がいなくたって、自分でスリルはつくることができるし、世界を変えることだってできるんだってことを伝えて、ルパンは去っていった。たぶん、レベッカはもうスリルを求めていたずらに泥棒したりしない。赤ワインづくりだって十分スリリングなビジネスのはずだ。
1話から始まったレベッカのストーリーも、これにてひとまず完結だろう(次回以降も登場するみたいだけど)。ルパンをはじめ、次元、五エ門、不二子のメインキャラクターたちが、キャラが立ちすぎて微動だにしない中、レベッカは唯一揺らぎのあるキャラクターとして、話を動かしたり、ルパンの魅力をあぶり出したりしていたわけだ。
唐突な例えだが、『男はつらいよ』シリーズの晩年、高齢となって恋愛で騒動を起こせなくなった車寅次郎(渥美清)の代わりに、一手に恋愛面を担った甥の満男(吉岡秀隆)のような役割だったのかもしれない。寅さんにとっての満男は、当然ながら恋敵ではなく、恋や人の道について教える生徒のような存在である。『男はつらいよ』のテレビシリーズが始まったのが1968年、『ルパン三世』の原作が連載開始したのはそれより1年早い1967年のことだ。
ルパンにとってのレベッカも、恋焦がれるマドンナではなく、子のように教え導く存在だった。そういう意味では、峰不二子の牙城も揺るがすには至っていない。個人的には恋の相手として、ルパンをもっとシャカリキにさせることができていたら、もう少しダイナミックなお話が生まれたかなー、とも思ったりする。
さて、今夜放送の第23話「世界解剖 前編」。いよいよラストエピソードの幕開けだ。チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)