チマチョゴリを着た女性キャスターが高圧的な口調で、アメリカへの敵意を表明する……
日本でもお馴染みとなっている、このニュース映像。地下核実験の実施や長距離弾道ミサイルの発射など、北朝鮮の動きが活発化している現在、テレビやネットで目にする機会は確実に増えています。


今年に入り、目が離せなくなっている北朝鮮情勢ですが、近年において最も国民的関心事になったのは、2002年のこと。何があった年か覚えていますか? そう。5人の拉致被害生存者が帰国を果たした年です。
日韓ワールドカップが開催された年であったにも関わらず、日本漢字能力検定協会の公募によって決めている「今年の漢字」(清水寺で和尚さんが巨大な筆で半紙に書くアレ)に「帰」の一文字が選ばれたのは、紛れもなく、この事件が決め手となっています。

北朝鮮報道に染まった2002年下半期


今思い返すと、2002年下半期の報道・情報番組は、北朝鮮一色でした。9月17日、電撃的に実現した初の日朝首脳会談。当時の内閣総理大臣・小泉純一郎が将軍様・金正日と強張った表情で握手を交わす場面は、まさに「その時歴史が動いた」瞬間。日本近・現代史に新たな学習項目が加わった現場を目撃したと、この時、日本国民全員が体感したものです。

そして、その約1ヵ月後、拉致を事実であることを認めた北朝鮮から解放され、5人の被害者たちは「帰」ってきます。なんと濃密な30日あまりでしょうか。首相訪朝の衝撃、北朝鮮の非人道的行為への憤り、24年ぶりに果たされた家族再会への感動……。目まぐるしく移り変わる2国間の動向とセンセーショナルな展開に、誰しもがニュース番組に釘付けとなりました。
そんな北朝鮮報道が過熱していた時期に、放送を開始したのが『ブラックワイドショー』です。


北朝鮮ネタを積極的に放送した『ブラックワイドショー』


2002年10月6日から2003年3月30日にかけて放送されたこの深夜番組。社会ではどうでもいい事とされていたり、普通のニュース番組などでは伝えられない、あらゆる“グッとくる”出来事を放送するというのが基本スタンス。世界中のグッとくる映像を紹介する「世界のばっちぐーニュース」や、妖怪をキーワードに今週の運勢を読み解く「妖怪占い」、かつてジャイアント馬場と対戦したことがある大男「ラジャ・ライオン」を捜索するなど、その内容は多岐に渡りました。

けれども、スタート時より拉致関連のニュースがお昼のワイドショーをにぎわせている現状を鑑みて、番組の多くで北朝鮮に関する情報を扱うことになります。それも、“北朝鮮をイジる”という独自の方向性で。素材となったのは、朝鮮中央放送で報じられた映像の中で、通常、日本のニュース番組では取り上げにくいもの。
例えば、律動体操、喜び組、マスゲームなど。瑣末ではあるけれど、非常に興味深い“お国の事情”を俎上に上げ、妙に生真面目なナレーションを駆使し、その異常性を際立たせる演出を施しています。
特に、よく放送されていたのは、少年律動体操。少年少女が不気味なほどに、崩れることの無い笑顔を浮かべながら楽団音楽に合わせて踊っている映像を、北朝鮮の観光スポットを背景に数分間ノーカットで見せるのです。シュール以外の何ものでもありません。

北朝鮮を「イジる」報道 普通のニュース番組でも


しかしすごいのはこの番組を発端に、北朝鮮を「イジる」報道が徐々に昼や夕方の情報・ニュース番組でも観られるようになったのです。やり方としては映像の中に滑稽さを見出し、ナレーション入れをして違和感を演出するというもの。

それはほとんど、『ブラックワイドショー』的方法論のフルコピーでした。山梨学院大学の教授であり、北朝鮮に精通するあまり北朝鮮産のコンドームまで所有している宮塚利雄教授という、名コメンテーターを世に輩出したのもこの『ブラックワイドショー』だったと記憶します。
当時、いつテポドンを飛ばしてくるか分からない “悪の枢軸”とされていた国を、笑いのネタにする……。そのラジカルな姿勢に、惹かれた視聴者は多かったはずです。

(こじへい)
※イメージ画像はamazonよりお笑い北朝鮮―金日成・金正日親子長期政権の解明
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