玉置浩二というと、近年は石原真理と婚姻届けを出したと思ったら、すぐに別れて青田典子と結婚したり、コンサート中に呂律が回らない状態で客と口論するなどの奇行が目立つため、「エキセントリックなオジサン」として認知している人も多いのではないでしょうか? 
しかしこの人、Mr.Childrenの桜井和寿やスキマスイッチの大橋卓弥、コブクロの黒田俊介など、今をときめく人気ミュージシャンからその能力を絶賛されるほどの才人。ソングライティング力・歌唱力・演奏力、どれをとっても超弩級の腕前を持つ、Jポップ屈指のマルチプレイヤーなのです。
さらに俳優としても、これまで数多くのドラマや映画で印象深い演技を見せており、芝居のスキルもかなりのもの。やはり天才とは変人的資質も兼ね備えた人を指すのかも知れません。

玉置浩二の好演が光ったドラマ


そんな玉置浩二がまだマトモだった時(マトモだと思われてた時)に、ミュージシャン・役者としての才気をいかんなく発揮した作品が、浅野温子主演の連続ドラマ『コーチ』(フジテレビ)です。舞台は、千葉県九十九里浜。浅野温子演じるキャリアウーマンが、赴任先である街の缶詰工場を立て直していくという物語でした。
この作品で玉置が扮するのは、純朴な工場の従業員・三国清太郎。彼の真っ直ぐで裏表のない人柄が、最初は「なんであたしがこんなところで働かなくちゃならないのよッ…!」と、工場勤務にツンツンしていた温子の心を溶かしていきます。

どこか闇がある玉置浩二の明るさ


要するに彼はいい人の役を演じたのですが、実際の玉置も見た感じはいい人そうです。時折見せる少年のような笑顔など、役柄を地で行く屈託のなさです。しかし、昨今の奇天烈な言動から鑑みるに、玉置の「いい人感」の裏には、どこか狂気があるように思えてなりません。
おそらく彼には二面性があり、明るさの影に潜む屈折した部分の存在を十分、自分で認識しているのでしょう。その上で、「イイ人のみを演じる自分」を冷ややかな目線で客観視しながら、三国清太郎になりきっていたように感じます。劇中、常に俯瞰して自分の芝居を見つめているためか、玉置はとてもいい演技を披露しています。

シングル『田園』は90万枚以上のヒット


この好演と共に、玉置が歌った主題歌『田園』も注目を浴びました。どこか劇中の三国清太郎を連想させる、泥臭くて溌剌とした歌唱が作品の世界観とマッチし、ドラマの人気と比例するかのように、90万枚以上という好調な売り上げを記録。
玉置のソロキャリア、最大のヒット曲となりました。
さらに、この『田園』に負けず劣らず、番組きっかけでヒットした商品が『サバカレー』の缶詰です。

名作ドラマの忘れ形見「サバカレー」


これ、名前の通り、サバをカレーで煮込んだだけの食品なのですが、当時は驚くほど売れました。なんせ劇中では物語ラスト付近、傾いた工場を立て直す起死回生の商品として登場し、ストーリーをハッピーエンドへ加速させる最大の原動力となったのです。
サバとカレーという斬新な組み合わせ、物語でのセンセーショナルな印象……。視聴者に与えたインパクトが絶大だったのは、言うまでもありません。現実世界でもその勢いは変わらず、放送終了直後の1996年10月に商品化されるやいなや、飛ぶように売れ、一時は入手困難となるほどでした。
現在でも千葉県銚子あたりへ行くと、多くのお土産屋さんに置いてあるそうなので、機会があれば購入してみるといいでしょう。サバがもつ魚介のうまみが効いたカレーは、コクがあり懐かしい味わいのする逸品です。

このサバカレーのような社会現象ともいえる商品を生み出し、最終回の視聴率、20%超えを記録したにも関わらず、未だにDVD化すらされていない『コーチ』。映像コンテンツも、当時ギリギリまだ爽やかだった玉置浩二もなき今。この缶詰とシングル『田園』だけが、名作を思い出させる唯一の忘れ形見として残っているのです。

(こじへい)

※イメージ画像はamazonより田園 KOJI TAMAKI BEST
編集部おすすめ