1996年の第1シリーズから、2002年の第4シリーズまで連続ドラマとして放送され、その間に劇場版も公開。2014年には、久しぶりに新作のスペシャル版が放送されて話題となりました。この作品で主人公を務めるのは、観月ありさ。ドジでおっちょこちょいだけど患者想いの看護師「朝倉いずみ」は、彼女最大の当たり役として知られています。
そんな、絶大な人気を誇った『ナースのお仕事』のフォーマットを利用してつくられたのが、1999年に放送された『天使のお仕事』です。
『ナースのお仕事』とほぼ同一キャストの『天使のお仕事』
「スターシステム」という言葉をご存知でしょうか? ドラマや映画を制作する際、売れっ子役者の起用を前提に考え、その俳優を中心に物語や設定を練り上げる手法のことです。
日本においては、漫画の分野ではありますが、手塚治虫がこのシステムの使い手として有名。彼の作品では、キャラクターが頻繁に使いまわされており、(例えば『ブラックジャック』で、アトムそっくりの患者が登場するなど)そうすることで、読者がキャラに愛着を抱きやすいという効果が期待できるのだとか。
『天使のお仕事』も、一種の「スターシステム」的方法論によって制作されたドラマです。キャストのほぼ全てを『ナースのお仕事』からシフトさせ、主演も本家同様に観月ありさ。舞台を病院から教会に変えたものの、観月演じる新米シスター「阿部まりあ」のキャラは頑張り屋でまっすぐという、まんま「朝倉いずみ」でした。
このドラマ、期待値は相当高かったと記憶します。なにせ、『天使のお仕事』以前に放送されていた『ナースのお仕事』パート1とパート2は、どちらも最終回の視聴率が20%超え。
松下由樹の不在が、アダとなり…
ところが視聴者は、初回放送から大きな違和感を味わいます。「先輩がいない!」。そう、シリーズ通して観月の先輩役を務めた、松下由樹が不在なのです。これは致命的です。
『ナースのお仕事』における尾崎主任こと、松下由樹の存在はあまりにも重要。朝倉がボケなら尾崎主任はツッコミ。2人の異なる個性がぶつかることで生まれる漫才のような掛け合いは、物語がもつ魅力の根幹を成しているといっても過言ではありません。几帳面で厳しい先輩がいたからこそ、朝倉は一人前の看護師に成長できたのです。天真爛漫で誰にでも平等な朝倉がいたからこそ、技術一点張りだった先輩も温かい人柄に変わってこれたのです。
この2人が揃ってこそ物語が前進するし、この2人が揃ってこその『ナースのお仕事』なのに……。そう思ったファンは多いことでしょう。
視聴率は16.5%から5.9%まで下落
これには、松下由樹が他局のドラマに出演が決まっていたという事情があったそうです。しかし、大事なツッコミ役を失った物語の魅力は当然半減。吉行和子、長塚京三など、大物俳優を本家からスライド起用させていたにも関わらず、視聴率は初回の16.5%から低迷を続け、最低で5.9%にまで落ち込みました。結果、これまでにビデオソフト化どころか、フジテレビで再放送すらされていない黒歴史として扱われているのです。
もし、松下由樹が出ていたら……。ナースのお仕事』同様に、『天使のお仕事』パート2、3と放送される人気シリーズとなっていたのでしょうか。それは天使を遣わしたとされる、神のみぞ知るというところでしょう。
(こじへい)
※イメージ画像はamazonよりナースのお仕事 ザ・ムービー [DVD]