ニュースやワイドショーで頻繁に取り上げられる、ストーカーに関する事件。中には殺人につながってしまうケースさえあり、痛ましい犯行の報を聞くたびに「警察は何をしていたんだ?」「周囲の人たちは被害者のSOSに気付けなかったのか?」という問題意識の堂々巡りがなされます。


そもそも、90年代前半「ストーカー」なる言葉は存在しませんでした。屈折した恋愛感情の暴発による同様の手口は散見されたものの、それを指し示す適当な用語はなかったのです。

同時期に放送された2本のストーカードラマ


そんなストーカーの存在が認識され始めてきたのは、今から20年前のこと。まだSNSもなければ、携帯電話も普及していない、現在よりもずっとアナログなコミュニケーションを主体としていた時代です。この時期に、ある2つのドラマが同じクールに放送されて話題を呼びます。それが『ストーカー・誘う女』と『ストーカー 逃げきれぬ愛』です。放送されたのはどちらも1997年の1月。この2本のドラマは、まだ世間で認知されていない“ストーカー像”を広く知らしめた作品。順を追ってそれぞれ紹介していきます。

雛形あきこの狂気じみた演技が冴える!『ストーカー・誘う女』


まず、『ストーカー・誘う女』。こちらは陣内孝則と雛形あきこが主演を務めたTBS系列のドラマです。陣内が大手商社の課長で二児の子をもつマイホームパパの役、雛形がその陣内に、病的なまでの好意を寄せる同じ会社のOL役でした。
ストーリーはざっとこんな感じ……。ある時、生き別れの父親にそっくりな陣内を社内で見かけた雛形。
彼女の心には少女時代に両親が離婚した後、父が子連れの女と再婚したことにより、“愛されなかった記憶”が刻まれています。その得られるはずだった愛を求めるかのように、彼女は陣内に過剰な付きまとい行為を働くようになっていくのです。
見どころは何といっても、エキセントリックな雛形の演技。いくら拒絶されようが、どこまでも陣内を追いかけて、挙句の果てには彼の妻を手にかけようとする彼女に、凄まじい狂気を感じたものです。しかし、その健気さに胸を打たれる場面も。特に雛形が陣内をディナーに誘ったものの、何時間待っても彼は現れず、ついには閉店時間となり、ウェイターが「お客様、もう閉店のお時間ですが…」と言ったときに、「彼は来るんです!」と涙を浮かべながら応えるシーンは切なすぎてこっちまで泣けてきます。

渡部篤郎のマジキチスマイルが光る!『ストーカー 逃げきれぬ愛』


マジキチスマイルとは、「マジでき●がいじみた笑い」のネットスラング的略称。そんな言葉が生まれる前から、この言葉以外形容しようもないほど不気味な笑顔を浮かべていたのが、日本テレビ系ドラマ『ストーカー 逃げきれぬ愛』での渡部篤郎でした。
彼のストーキングの対象となったのは、この作品で連ドラ初主演を飾った高岡早紀。物語は、ある年のクリスマス・イブから始まります。不倫相手に振り向いてもらえず傷心して夜の街を歩く高岡は偶然、渡部と遭遇。あまりに悲しげな彼を見て、さきほど不倫相手から貰ったクリスマスローズの花束を彼にあげてしまいます。
その瞬間から、彼女にとって恐怖の日々が始まるのです……。
渡部が高岡の留守中に家へ上がり込み、風呂の浴槽に入っているシーンなどはトラウマもの。なお、この怪演をきっかけに渡部は注目され、連ドラ常連俳優に。本作は彼にとって、出世作でもあるのです。

このようにストーカーを題材とした20年近く前の2作品ですが、SNSや位置確認アプリなど、現在のツールを使うとどんな展開を見せるのでしょうか? リメイクブームの波に乗ってぜひ、“現代版”として生まれ変わったバージョンを見てみたい気もします。相当怖そうですが……。
(こじへい)

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