
“氷の魔女”により世界は雪と飢餓と狂気に覆われていた。ベヘムドルグ兵ドマの“消えない炎”で村と妹を焼き尽くされた主人公アグニ。自身が持つ再生能力と消えない炎により、炎人間になってしまう。8年かけて炎のコントロールを覚えたアグニは、ドマを倒す復讐の旅に出た。
第3話は、奴隷狩りから助けた少年サンが懐いてしまい、一緒に野宿したところをベヘムドルグ兵に襲われ、脳天を銃で撃たれて終わった。
アグニが人間らしいことをする異常にホッとする
銃で撃たれても当然再生するアグニは、ベヘムドルグ兵達がサンに構っている間に起き上がり、モブ達を一掃する。残ったリーダー格の男はサンを人質に取り「来るなよ!動いたらこいつを殺す!」と、悪役お決まりのセリフ。
しかし、アグニはただの主人公ではない。私怨にかられる復讐鬼だ。普通だったら「卑怯だぞ!その手を離せ!」となるところだが、アグニは「俺には関係ない。殺すなら殺せ」と平気で言い放つ。これが脅しでも何でもないのだからアグニは怖い。
微量ながらも電気を発する事が出来るサンは、必死で抵抗するもそれがきっかけで雪崩が起きてしまう。
今までは読んでいるだけで胸が痛くなるような辛いエピソードばかりだったが、ここにきてのホッコリ回。やっときた良い話だ。炎人間になってから初めてアグニが優しさを見せた。これからは復讐鬼として生きるアグニの心を少しずつサンが和らげていってくれるのかもしれない。
もしかして、これってバトル漫画じゃない?
第4話を見て、率直に思ったことがある。それは「全然バトルしないじゃんこの漫画!」という事だ。もしかしてこれってバトル漫画ではないのではないか?タイトル名、ジャンプ作品であるということ、そして主人公のド派手な能力からこの漫画を当然のようにバトル漫画だと解釈していたが、思い返すと、1話の鉄を生み出す男も今回の相手も一撃で倒すだけでバトルシーンがほとんどない。というより、そこに重きを置いていない感じがする。
Webサイトでの煽り文句は“巨弾衝戟ファンタジー”。
同じジャンプ+の「群青のマグメル」は“新感覚ファンタジー浪漫譚”「とんかつDJアゲ太郎」は“渋谷発最新型とんかつDJ漫画”と、内容を表しているがファイアパンチだけはあえてか、説明していないのだ。一体何を見せたい漫画なのだろう?
普通の能力者系バトル漫画にも、もちろん人間を描くドラマは存在する。同じジャンプの「ワンピース」なんかはそこが幅広い年齢層からの支持に繋がっている。しかし、あくまで特殊能力はバトルの為に存在するのであって、感動を生む為に存在しているわけではない。
「能力者ならこんなことが出来る!」ではなく「こんなことになってしまう!」
だが、ファイアパンチは少し違う。特殊能力がドラマの為に存在しているように思える。ゴムゴムの実だったら腕を伸ばしてパンチしたり、銃弾を跳ね返したりと、バトルを面白くする為に存在するが、ファイアパンチの場合、氷の魔女は冷凍ビームや氷の剣ではなく、飢餓に苦しむ人々を作り出した。アグニは再生能力を使い、身体を切断して食料や暖炉に焼べる薪になった。消えない炎は、再生し続けるアグニを燃やして炎人間を生み出した。
ファイアパンチは特殊能力による派手なバトルではなく、特殊能力における副作用を描いている作品に見える。こんな能力あったらこうなってしまうのかな〜と、能力者あるあるみたいな物を突き詰めることによって物語が作られている。少なくとも、今の時点ではどうジャンル分けしていいのか難しい。
心を許せる仲間が出来たアグニの次なる行動は?続きが気になる「ファイアパンチ」第5話は、5月16日配信予定だ。
(沢野奈津夫)